135部分:第九話 悲しい者の国その八
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第九話 悲しい者の国その八
「それもです」
「指輪は上演できないと思いましたが」
「あれだけの作品ですし」
「流石に」
「しかしです」
だが、というのである。友人達もまたその言葉に喜びを表していた。彼等はワーグナーの友人であるだけではない。信奉者達でもあるからだ。
「陛下のお力があれば」
「あの未曾有の大作もですね」
「上演できますか」
「私はかつてジークフリートに別れを告げました」
つまり指輪を諦めたというのだ。そうしていたというのだ。
「ですがそれでもです」
「陛下がおられるからこそ」
「上演できるようになった」
「完成すれば」
「はい、そして」
ワーグナーの言葉の熱はさらに強まる。そのうえでさらに話すのだった。
「その作品はです」
「まさかと思いますが」
「あの夢をですか」
「実現されるというのですか」
「本当に」
「はい、そう考えています」
まさにそうだというのであった。ワーグナーの言葉は本気のものだった。
「私の作品を。専用の劇場で」
「貴方の作品のみを上演する劇場」
「それがですね」
「本当に実現する」
「そうだと」
「はい、実現させます」
その本気での言葉だった。
「必ずや」
「それではです」
「我々もその貴方の夢が実現することを願います」
「心より」
「御願いします。そして実現すれば」
その時はというのだ。
「私の作品は誰もが観られるようにします」
「誰もがですか」
「貴方の作品をですね」
「そう」
「はい、そうです」
その通りだというのである。
「誰もが観られるのです」
「それも無料で」
「そうなのですね」
「このバイエルンの何処かの地で」
今彼はミュンヘンとは言わなかった。間違いなく。
「その劇場を設けます」
「そして貴方はそこで、ですね」
「貴方の作品と共に伝説となられる」
「まさにそれに」
「私の作品は永遠に残されるべきものです」
己の芸術には絶対の自負があった。だからこその言葉である。
「ですから」
「そうですね。だからこそです」
「その劇場は築かれるべきです」
「この世に」
「陛下ともそのことをお話しています」
それも既にというのである。
「ですから。それも間違いなくです」
「実現するのですね」
「その途方もない夢が」
「私は神に祝福されています」
まさにそうだというのだった。
「それはまさに」
「まさに」
「まさにといいますと」
「エルザと巡り会えたローエングリンなのです」
ここでだ。ワーグナーは己をローエングリンとした。彼は確かにこうしたのであった。
「私はそれなのです」
「ローエングリンなのですか」
「貴方がですか」
「はい、私がです」
やはり
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