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永遠の謎
132部分:第九話 悲しい者の国その五
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第九話 悲しい者の国その五

「ですが。運命めいたものを感じます」
「グッデンについてもか」
「私と何処かで会い、私に何かを告げるような」
 王はいぶかしみながらも遠い目で話すのだった。
「そんなものを感じます」
「また妙なことだな」
「はい、自分でもそう思いますが」
 王はさらに話す。
「グッデンという名前には。そんな響きが」
「気のせいではないのか、それは」
「だとすればいいのですが」
「とにかくだ。ワーグナーについてはだ」
「はい、何があってもですね」
「そうだ。手放すな」
 こうだ。王に対して忠告するのであった。
「いいな、絶対にだ」
「わかりました。ではまずは」
「あのオペラだな」
「トリスタンとイゾルデはこのミュンヘンで初演させます」
 王の言葉に熱が宿った。これまでとはうって変わってだ。
「必ずです」
「そして彼の他の作品もだな」
「今作曲しているというニュルンベルグのマイスタージンガーも」
 その作品もだというのである。
「そしてニーベルングの指輪もです」
「全てか」
「はい、彼の作品は全てです」
 そうするとだ。彼は言って退くことがない。
「このバイエルンで」
「そういえば彼は自分の作品を上演する為の劇場も望んでいたな」
「素晴しいことです」
 王の言葉にさらに熱が宿る。
「かつてその様なことはありませんでした」
「一人の音楽家の為の劇場なぞな。なかったな」
「そうです。そしてその劇場をです」
「この街に設けるのだな」
「はい、このミュンヘンに」
 まさにこの街にだというのだ。
「それを置きます」
「そしてそこでワーグナーの作品がか」
「上演されます。素晴しいことにです」
「芸術には。何物も勝てはしないか」
 公爵は甥である王の言葉を聞きながらだ。こう思うのだった。
「そうだな」
「はい、まさにそうです」
「そして陛下はその中で生きる」
「ワーグナーと共に」
「ワーグナーであればまだいいが」
 またこんなことを言った。思わざるを得なかったからだ。
「だが。それがその心を繋ぎ止めるならだ」
「よいのですね」
「私はそれでいいと思う」
 やはりだ。何処までも甥である王を護ろうとしていた。そして彼の為にだ。最もよいことをしようと誓っていた。それが公爵であった。
 その暖かい目で王を見てだ。彼は話した。
「ではだ」
「はい、今から政務にあたりです」
「それからだな」
「劇場に行きます」
 そのトリスタンとイゾルデのリハーサルが行われているそこにだというのだ。
「そしてその初演を成功させます」
「ではそうするといい」
 公爵は甥を暖かく見送った。こうしてだった。
 王は政務を終わらせてから実際に劇場に足を向かわせた。そう
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