第一章
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お父さん
向日ヒナタには両親はいない、その名前も一体誰が名付けたのか知らない。だが家はしっかりとあってそこから学校に通っている。
ヒナタの担任の先生、若い女の先生はヒナタ自身にこのことを問うたがヒナタはこう言うばかりだった。
「僕わかんない」
「わかんないって」
「何もわからないから」
こう言うだけだった、とにかくヒナタ自身に聞いてもこうした返事ばかりで何を聞いてもわからなかった。
だが担任として彼のことを知っておく必要があった、それでヒナタの家に直接家庭訪問として行くことにした。
事前に連絡すると年老いた男の返事が来た、聞く苗字はヒナタの向日とは違うものだった。
だが老人は先生に穏やかな声で答えた。
「ヒナタはわしの家にいます」
「そうですか」
「そしてわしがです」
老人がというのだ。
「ヒナタと今一緒に暮らしている」
「ご家族ですか」
「ヒナタはそう思っているか」
このことはというのだ。
「わからないので」
「ご家族とは言えないですか」
「どうにも、しかし」
「それでもですか」
「わしがヒナタを家に置いて料理を作って食べさせて」
そうしてというのだ。
「風呂に入れて洗濯をしています」
「そうですか」
「それでお電話をしてくれたのは」
「今度家庭訪問にと思いまして」
先生は老人に答えた。
「それで」
「そうですか、では来られたら」
「その時はですか」
「わしの知っていることを全部お話します」
「宜しくお願いします」
こうしてだった、先生はヒナタが今いる家に家庭訪問した。すると家は一軒家で七十歳程の皺がれた様子の老人が出て来た。
老人はまず先生に自分のことを話した。
「ずっと鉄道会社に勤めていました」
「定年まで、ですか」
「それで最近までシルバーワークで働いていました」
「そうでしたか」
「ですが今は完全に年金暮らしです」
そうなったというのだ。
「妻も亡くなり」
「お一人ですか」
「妻の葬式、四十九日も終わった時にあの子が家の前にいました」
ヒナタ、彼がというのだ。
「それでどうしたのか聞いても」
「あの様にですか」
「わからない、です。それで役所に言って聞いても」
「身寄りがわからなくて」
「どうしようと思っていたのですが施設の空きもなく」
それでというのだ。
「私の家に。まだ家族ではないですが」
「一緒にですか」
「暮らしています」
「向日さんの生活のことも」
「全てしています。カレーライスが好きなのでよく作っています」
そうして食べさせているというのだ。
「何処から来たのか、名前は誰かに言われたのかわかりませんが」
「向日ヒナタさんですね」
「そう聞いていますので」
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