128部分:第九話 悲しい者の国その一
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第九話 悲しい者の国その一
第九話 悲しい者の国
ミュンヘンでのワーグナー攻撃の動きはさらに激しくなっていた。
新聞では連日連夜彼を攻撃する記事が載り政府や宮廷でもだ。彼を批判する者が増えていっていた。そして王にも彼について言う者がいた。
「陛下、このままではです」
「財政に支障が出ます」
「ですから最早」
「あの御仁とは」
「ましてやです」
今度はだ。この話であった。
「ビューロー夫人とのことも」
「あれはどうやら事実のようですが」
「あれは」
この話も為されていく。
「幾ら何でもそれはです」
「あってはなりません」
「そう思われませんか、陛下も」
「今ミュンヘンでは彼のその話が」
「それは全て事実無根だ」
しかしであった。王はそういった話を全て否定するのだった。
そしてそのうえでだ。彼はこう言うのであった。
「流言蜚語、誹謗中傷の類には惑わされない」
「いえ、ですからこれは」
「全て事実ですが」
「間違いなくです」
「ですから」
「何度も言うつもりはない」
王は彼等にそこから先は言わせなかった。
「そういうことだ」
「左様ですか」
「では陛下は」
「ワーグナー氏は」
「潔白だ」
こう言うのだった。言い切ってさえみせた。
「それを言っておく」
「わかりました。それでは」
「その様に」
誰もが頷くしかなかった。そしてであった。
王はワーグナーに文を送り続けていた。その文章もかなり熱いものだった。
ロマン主義そのもののその文体で書きながらだ。王は思うのだった。
「こうして文を書くだけでもだ」
「幸福ですか」
「そう仰るのですね」
「そうだ、ワーグナーとこれでも交えられる」
こう言うのである。
「それだけでもだ」
「左様ですか」
「それでしたら」
「文位はいいな」
王は周囲のその言葉や視線を気にしながら述べた。
「これは」
「確かに。文でしたら」
「別に誰も何も言わないと思います」
「そこまでは」
「私は多くを望んでいるだろうか」
王はふとだ。こんなことも言った。
「果たして」
「それは」
そう問われるとだった、誰もが言葉を詰まらせた。そうなるのだった。
「私はワーグナーと共にいたいのだ」
「それだけですか」
「それだけだと仰るのですね」
「そうだ、それだけだ」
また言う王だった。
「そして彼の芸術を愛したいのだ」
「ですがそれは」
「ワーグナー氏はです」
「あの方は」
確かに王はそれだけだった。しかしだ。
この問題は相手がいる。その相手がなのだった。
周りの目にはだ。王の寵愛をいいことにしたやりたい放題をしている。そうとしか見えなかった。
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