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戦国異伝供書
第十一話 退く中でその二

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「この城をあらかた空にしたうえで退くことはな」
「ですな、しかしです」
 ここで丹羽が信長に言った。
「間に合わぬ時は」
「その時は棄て置け。ものがなくとも人がおれば何とかなる」
「だからですな」
「いざとなれば置け」
 兵糧や武具はというのだ。
「そうして退け」
「それでは」
「うむ、それではわしは行く」
 こう言ってだ、信長はいつも自身を護っている毛利や服部それに武勇と忠義を誇る森を連れて行った。しかし。
 松永も連れて行くことにだ、前田は仰天して言った。
「殿、そ奴は」
「案じるな、わしがおる」
 その前田に森が真剣な顔で応えた。
「だからな」
「そうですか、与三殿がおられるなら」
「うむ、あ奴が何をしようとしてもな」
 それでもと言うのだった。
「必ずじゃ」
「はい、ここは」
「お主達もお主達でじゃ」
「それぞれの兵をまとめて」
「退くのじゃ、都で会おうぞ」
 こう言ってだった、そのうえで。
 織田家の軍勢は金ヶ崎城からすぐに退いた、まず信長が去り羽柴が後詰となって退いた。十万の軍勢が一気にだ。
 退きだした、その中で福富は長谷川に言った。
「さて、それでな」
「我等もな」
「兵を率いて退くか」
「急いでな、この金ヶ崎城を退いてな」
「そしてじゃな」
「都まで下がるぞ、羽柴殿が後詰なら」
「うむ、あの御仁はこうした時は頼りになる」
 実にとだ、福富は言った。
「だからな」
「それではな」
「我等も都に進もうぞ」
「兵達と共にな」
 彼等だけでなく織田家の軍勢は羽柴や彼と共に後詰を志願した家康と彼が率いる徳川家の軍勢に後ろを任せてだった。
 金ヶ崎を出た、その兵達を見つつ丹羽は言った。
「さて、金ヶ崎からな」
「それで、ですな」
 その丹羽に池田が応えた。
「このまま南に下りますか」
「そうじゃ、その途中にはじゃ」
「浅井家の領地を通りまする」
「近江に入るところが危うい」
 丹羽は池田に鋭い声で述べた。
「そして琵琶湖の西岸に入るまでがな」
「西岸に入れば」
「後は猿次第じゃ」
 羽柴の頑張り次第だというのだ。
「あ奴が後詰になるからな」
「そうして浅井家の軍勢を防いでくれるので」
「あ奴ならやってくれる」 
 羽柴、彼ならばとだ。丹羽は池田に確かな声で話した。
「防いでくれる」
「だからですな」
「うむ、我等はひたすら都に向かうぞ」
「命を拾うことですな」
「殿は死ぬなと言われておるな」
「はい、この度は」
「生きていれば何とかなるとな」
「だからこそですな」
「我等は生きるのじゃ、十万の兵を率いてじゃ」
 そのうえでというのだ。
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