「わたしの部屋……なにもありません」
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むかしむかし、あるところに。プレミアと呼ばれるようになった少女がいました。名前もなく記憶もなく住処もなく仲間もなく役割もなく、ただこの世界に放り出された彼女は、運よくその全てを手に入れることが出来ていました。
その幸運を噛み締めながらも、リズベット武具店の自室から目覚めたプレミアは、ふと、自分の部屋を見回して思いました。
「わたしの部屋……なにもありません」
そうなのです。プレミアの部屋としてあてがわれた部屋でしたが、そこにはプレミア個人のものは何もありませんでした。強いて言えば、ユイと一緒に買ってきたお揃いのパジャマと、いつぞや間違って買ってきた斧ぐらいでしょうか。ただしそれらは『いんてりあ』とは呼べません、とプレミアは考えると、途端にプレミアは自身の部屋が空っぽに見えてきたのです。
「こうしてはいられません」
プレミアは急いでベッドから飛び起きながら、他の人の部屋はどんな様子だったか思い出します。ショウキの部屋は、かっこいいカタナが飾ってあり、ロッカーの中には大量のカタナがあり、ベッドの下にはカタナが置いてありました。リズの部屋には『こーひーめーかー』なる道具に、店のことをまとめた本と、壁には写真がよく飾ってありました。
部屋というものは、その人がどんな人かが少しだけ分かるのだと、プレミアは聞いたことがありました。だけど今のプレミアの部屋は空っぽです。空虚です。ならばそんな部屋の主であるプレミアもまた、何もない空っぽなのでしょうか。
そんなことはありません、とプレミアは思います。前のわたしならともかく、ショウキたちと一緒になれた今のわたしは、『空っぽ』ではないのです、と。
無表情ながらもそんな決心を秘めたプレミアは、パジャマからいつものワンピース、さらにその上から外付けの鎧兜を装着し、細剣を腰に帯びて準備万端です。何かするにはまず形から入るべき、というものを聞いたことがあったからです。
「むん」
そうして気合い充分の格好で、プレミアはがらんとした印象の自分の部屋に別れを告げると、居住スペースからリズベット武具店へと移動していく。とはいえこの時間、早朝にショウキとリズがいることは珍しく、今日もまた例外ではありませんでした。
「おう、おはよう」
「おはようございます。エギル。それに……」
リズベット武具店の隣に設置された喫茶店には、朝方に全ての準備を終わらせておくというエギルの姿があります。それに今日はエギルの巨大な姿だけではなく、噂に聞く『よっぱらい』のように、グラスを片手に机に突っ伏した男がいます。
「……キリト? 大丈夫ですか?」
「……ああ、プレミアか……おはよ――って、なんだその格好!?」
「はい。気合いを入れました。どこか変でしたか?
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