第三十夜「逃げ水の行方」
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の後ろで扇風機が回っていただけだったのだ…。
そんなことを朦朧とする頭で考えながら水溜まりを追っていると、ふと…今度は川のせせらぎが聞こえてきた。
「こんなとこ…あったっけ…?」
いつの間に入り込んだのか…そこは小川のある雑木林の中だった。
「…夢…?」
余りのことに、彼女は呆気にとられた。だが、手には先程買った駄菓子がある…。
「そうだ…溶けちゃう。」
駄菓子を見て、彼女はおまけで貰った棒アイスを思い出した。
取り出して見ると、それはさして溶けていなかった。
彼女は不思議に思いながらも、それの口を歯で噛み切って吸い始めた。
これもまた、昔を思い出す懐かし味…。
彼女はそれを楽しみながら辺りを眺めると、不意に…故郷で遊んだ雑木林を思い出した。
「あ…そうそう、こんな小川のある林で友達と遊んだわ…。」
彼女はアイス片手に、あちこちと林の中を見て回った。そこは涼しく、降り注ぐ蝉時雨さえ心地良く感じた。
しかし、そうしているうちに、彼女は道路へと出てしまった。
そして…再びあの水溜まりを見付けてしまったのであった。
「もう…こうなったら…。」
彼女は意地になり、何としてもその水溜まりを見たくなった。
故に、彼女は凝りもせず追いかける。どこまでもどこまでも…しかし、一向に近付けずにいると、今度は古びた寺の前に立っていた。
「え…ここって…。」
彼女は朦朧とした頭で記憶を辿る。この寺には、完全に見覚えがあるからだ。
だが…それは有り得ない。
それを確かめるべく、彼女は寺の中へと足を進めた。
中へ入ると、どこもかしこも懐かしい…記憶の中の風景に重なった…。
「この銀杏の木…。」
青々と葉を繁らせる大銀杏…。
「ここ…よく鬼ごっこしてた…。」
境内にある小さな公園…。
「あ、ここって…まさ君がひっくり返って…。和尚様、苦笑してまさ君をタオルで拭いてたっけ…。」
不動明王が見守る手水場…。
何故だろう…何故自分がここに居るのか分からないが、彼女は夢中で懐かしい場所を見て回っていた。
暫くすると、不意に後ろから声を掛けられ、彼女は驚いて振り返った。
そこには、年配の男性が立っていた。
「久しいですなぁ…また大きくなられて。」
その男性はこの寺の住職で、彼女も見知った人物であった。
「和尚様…お久しぶりです。」
彼女はそう言って頭を下げると、住職は「ま、お茶でも飲んできなさい。」と言って彼女を中へと上げてくれた。
通された客間も、彼女は覚えている。たった一度、祖母の葬儀の際に使わせてもらっただけだが…。
「待たせましたな。」
お茶を淹れて住職が戻ってきた。
彼女の前に出されたのは、お茶と…水羊羹であった。
その水羊羹は手作りのもので…もう食
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