第75話『終戦』
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静寂が訪れる。猛り狂っていた竜も、今はその息の根を止められた。訪れるはずだった世界の終焉も、もう足音も聴こえない。
紅く照り輝いていたはずの月は、いつの間にか黄金の輝きを放っていた。
戦いは──終わったのだ。
「……はぁっ!」ドサッ
大きく息をついて座り込んだのは一真。今やもう、竜殺しの黒い刀は持っていない。肩で息をしながら、彼は眼前の絶命したイグニスを眺めている。
「俺が…やったんだな」
世界を救うという快挙の成し遂げたにも拘らず、湧いてくるはずの達成感も、今は安堵と疲労に押し潰された。もう立ち上がる気力さえもない。
「長かった、な……」
思い起こすと、この時の為に一体何年掛かっただろうか。九年間という義務教育と同等の時間。この世界でその時間を過ごして、果たして自分は何かを得たのだろうか。表世界ではなく裏世界で、自分は何を──
「・・・そんなの、わかんねぇよ」
わからない。結局、未来なんて誰にも読むことはできないのだから。裏世界が表世界以上につまらない可能性だってあった。それでも、選んだことを後悔だけはしていない。
なぜなら──この上ないくらいに、楽しかったから。
*
「部長、副部長、大丈夫なんですかその怪我!?」
「大丈夫もクソもあるか。完全に機能停止してるんだよ入院もんだよ。死ぬかと思ったわ」
「私も油断してたわ。まさかお腹が捌かれる日が来るなんて…」
「げ、元気そうでなによりです」
晴登は愛想笑いを浮かべながら、現状を把握していく。
まず大事なことは、戦争が終結したこと。もう次の戦争も起こることはない完全な終戦だ。イグニスも、それを狙う魔王も もう存在しない。多大な犠牲を経てこの世界は、晴れて平和となったのだ。
次に、被害について。今回の戦争は山中だけという、極めて小規模と言えるだろう。だが、こちらの被害はよろしくない。何せ先の会話の通り、終夜の左腕は壊死に近い状態であり、緋翼の腹部の傷も浅くはなかった。常人であればそう有り得ない怪我を彼らは負っているのだ。加えて、伸太郎は依然として昏睡している。晴登や結月、一真の怪我はほぼ無いと言えるが、魔力の消費で疲労が溜まっていた。
「死者が出なかったのが唯一の救い、か……大したもんじゃ、アンタら。儂の目に狂いは無かったようじゃの」
豊満な胸を張って得意気な様子の婆や。怪我こそあったものの、死ななかったのは喜ばしいことである。もちろん彼女の尽力無くして、こんな結末は有り得なかっただろう。これで、彼女の仲間が浮かばれると良いのだが。
「・・・じゃあ俺たちの役目は終わりですか?」
「そうなるな。色々すまんか
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