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永遠の謎
122部分:第八話 心の闇その十二

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第八話 心の闇その十二

「貴方は」
「はい」
 見ればだ。制服の厳格な顔の男だった。それは。
「ブフォイファー警視総監」
「どうも」
 彼は一礼した。彼が来たのである。
「貴方でしたか」
「私もあの人物には思うところがありまして」
 それでだというのだった。彼は二人のところに来て話す。
「それでなのです」
「貴方も加わられるとは」
「このままではいけません」
 総監は険しい顔で話すのだった。
「あの男は放っておいてはです」
「しかし。警視総監の貴方がまでなのですか」
 男爵はこのことに驚きを隠せなかった。表情にそれが出ていた。
「我等の同志に」
「はい、バイエルンの為に」
 そしてだ。彼もこう言った。
「陛下の為に」
「そうです。陛下を惑わしバイエルンに取り憑くあの男を」
「何としても」
 男爵も首相も言う。彼等もバイエルンの為に動いていた。だがそれはだ。決して。
 しかしであった。ミュンヘンでの話を聞いたビスマルクはだ。難しい顔でこう周囲に話すのだった。
「まずいな」
「そうなのですか?」
「ミュンヘンの流れは」
「そうだ、まずい」
 こう言うのであった。
「バイエルン王にとってな」
「あの方にとってですか」
「まずいと」
「あの方にはあの音楽家が必要なのだ」
 その厳しい顔を暗くさせての言葉だった。
「絶対にな」
「絶対にですか」
「必要なのですか」
「誰にも支えが必要だ」
 ビスマルクは持ち前の鋭く深い人間洞察を見せた。
「私に妻がいてドイツ統一と繁栄という支えがあるようにだ」
「あの方にもですね」
「それが」
「あの方にとっての支えは芸術だ」
 まさにそれだというのだ。そしてさらにこう語るのであった。
「とりわけ。リヒャルト=ワーグナーの」
「その渦中の音楽家の」
「それがなのですね」
「それがなくては駄目なのだ」
 彼は断言した。
「若し失えば」
「その時は」
「どうなりますか」
「ローエングリンを失ったエルザだ」
 それだとだ。ビスマルクは言うのだった。
「それになられてしまう」
「姫にですか」
「そうなのですか」
「そうだ。姫なのだ」
 ビスマルクもまたこう言うのだった。ワーグナーと同じである。しかし当然ながら彼自身は自身の考えがワーグナーと同じだとは知らない。
「あの方はな」
「女性ですか」
「実は」
「御心はな」
 それはだというのである。
「女性なのだ」
「そうは見えないのですが」
「どうも」
「それは外見を見ているからだ」
 ビスマルクは言った。

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