34話:春の終わり
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なると表立って話せない案件の対応も求められる。そういう時にここを使っているらしい。まあ、フェザーンでは暗黙の了解らしいが。
もう一杯、お茶をゆっくり飲んでから私も部屋を後にする。次の目的地は酒場ドラクールだ。徒歩圏なので、フェザーンの中心街を見納めるつもりで、ゆっくり歩いた。この一年で、何度も押し開いたドアを開く。主人に目線を向けると軽くうなづかれたので、こっちも相手が先着しているようだ。通り馴れた通路を抜けてVIPルームに入る。
「ザイトリッツ様、お早いお着きで。早めに来て正解でしたな。」
「コーネフさんにはこの一年、先を越されっぱなしですね。今日こそは!とも思っていたのですが......。」
あちらからの機械調達の仲介人、コーネフさんが既にイスに座っていた。俺を待たせることをかなり気にしているのか、いつも先着していた。独立商人としての実績もある人だし、夜の飲み仲間としても気持ちがいい人だ。フェザーンの歓楽街を楽しめたのもこの人の紹介があってこそだったりもする。
「ヤンさんも予定を合わせてフェザーンにと話していたのですが、さすがに臨月の奥様を一人にはできないとのことで、お詫びをしておいて欲しいとのことでした。」
「いえいえ、予定日は4月でしたね。おめでたい話です。その件で先にお預かり頂きたいモノがあるのですが......。」
パトリックから、包みを受け取るとコーネフさんに手渡す。
「私は親交のある方の子弟の誕生日にはシルバーカトラリーを贈ることにしています。本来なら毎年ひとつずつお贈りして、成人になる頃に一式揃うようにするのですが、あちら側の方に私のような立場の人間から定期的に高価に見える物が送られてもお困りになるでしょう。最高級品では、ヤンさんもお気にされるかと思いまして、20回分の誕生日プレゼントとしてほどほどの物を一式用意してきたのです。お預かり頂いてもよろしいでしょうか?」
「これはこれは。ヤンさんもご配慮いただいてばかりでお困りになるかもしれませんが、せっかくの品です。お預かりいたしましょう。」
「コーネフさんの所は、毎年お贈りできるでしょうから、今から楽しみにしていますね。」
シルバーカトラリー一式を納めた箱の裏蓋にはちょっとしたサプライズを忍ばせている。この箱が幸せをきっかけに開かれるなら少なくとも20年後だろう。そうでない可能性もゼロではないが、ヤンさんには良い仕事をしてもらっているし、自分なりに気持ちを形にしておきたかった。帝国に戻れば軍人として戦争を主導する側になる俺が、あちら側の人間に気遣いをする事は矛盾するようにも思えたが、これも青春の思い出の一部になるのだろうか。
「それは一本取られましたな。ただ、ザイトリッツ様も帰国されればご婚約されるでしょう。失礼ながら先
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