121部分:第八話 心の闇その十一
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第八話 心の闇その十一
「そうすれば彼はさらに追い詰められます」
「そして陛下も」
「目を覚まされます」
彼等もまた、だった。王への忠誠は確かだった。その忠誠とバイエルンへの想いから動いているのは確かだった。ワーグナーへの憎悪や嫉妬も確かにあったが。
それでもだったのだ。彼等は。
「陛下は今オペラの初演にも心を傾けられていますが」
「では今は」
「ワーグナー氏を用意に手放されはしないでしょう」
首相はそれは察していた。
「ですがやがてはです」
「これを続けていけばですね」
「ワーグナー氏はこのミュンヘンからいられなくなります」
こう話す首相だった。
「バイエルンにとっても陛下にとっても」
「実にいいことですな」
「全くです」
二人で言い合う。しかしであった。
ここでだ。男爵が顔を曇らせて言うのであった。
「ただ」
「ただ?」
「ことが成就するのは少し先のようですな」
こう首相に話すのであった。
「どうやら」
「先ですか」
「トリスタンとイゾルデでしたか」
男爵はこのオペラのことを話に出すのだった。
「そのオペラでしたか」
「あのウィーンで上演できなかった」
「それです。今その初演の準備が進められています」
「それが影響しますか」
「そう思います」
男爵は顔を曇らせたまま述べていく。
「陛下は初演を何としても成功させたいと思われていますので」
「ワーグナー氏のそのオペラを」
「それまでは。何があっても」
「陛下は動かれませんか」
「そう思います」
これが男爵の見たところだった。
「それまではです」
「今は待つしかありませんか」
「そうです。ただ」
「ただ?」
「手は打ち続けられます」
男爵は暗い光をその目にたたえて述べた。
「それはです」
「ことを成就させる為には準備が必要ですな」
「それをしていきましょう。それで如何でしょうか」
「正論ですな」
首相も頷く。まさにその通りであった。
「ですからここは」
「よし、それでは」
こうしてだった。二人はさらに策を練るのであった。その中でだ。
首相がだ。こう男爵に話した。今度は彼からだった。
「それでなのですが」
「何かお考えが」
「いえ、我等の同志を増やしてはどうでしょうか」
彼の提案はこうしたことだった。
「ここで」
「我々だけではなくですか」
「はい、ワーグナー氏の敵は我々だけではないのです」
敵が多いのはだ。ワーグナーの特徴だった。その人格や行動がだ。彼は非常に敵が多い男となっていたのだ。特徴にさえなっていたのだ。
「そういうことです」
「それは承知していますが」
「それで、です。我等の他にも一人」
「同志がですね」
「います」
こう話す
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