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戦国異伝供書
第十話 朝倉攻めその八
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「近江の南の守りを」
「うむ、固めておこう」
 信長も頷いた、こうしてだった。
 織田家は朝倉攻めの用意の他に近江の南の守りも万全なものとした、そうして家康が率いる徳川家の軍勢の到着を受けてだった。
 十万の兵と家康の五千の兵で朝倉攻めに都を出た、この時は誰もが朝倉家はこの度の戦で降ると思っていた。
 だがふとだ、雪斎は出陣した夜に星を見てこんなことを言った。
「これは面妖な」
「どうされましたか」
「うむ、何故か退く星が出ておる」
 自分に聞いてきた蜂須賀にこう答えた。
「軍勢が」
「軍勢が退く星ですか」
「はて、当家の軍勢か」
 雪斎はこう言ったのだった。
「おかしな動きがありますな」
「あの、まさかです」
 蜂須賀は雪斎の今の言葉に眉を顰めさせて言った。
「我が軍勢が敗れるとは」
「ないですな」
「十万の兵にですぞ」
 蜂須賀はその自分達の軍勢のことをだ、雪斎に話した。
「長槍も鉄砲も多く具足もよいです」
「足軽一人一人に至るまで」
「しかも兵糧も多くあり」
 蜂須賀はこのことも話した。
「近江の南も固めています」
「そこまでしてですな」
「敗れるとは」
「思えませんな、それは拙僧もです」
「では何故軍が退くなぞ」
「だからわかりませぬ。朝倉家は退くというよりかは」
「降りますな」
 これは蜂須賀もわかった。
「領国を攻められるのですから」
「もう退く場所なぞありません」
「それでは降るのみ」
「最悪滅びるのですが」
「そのどちらもありません」
 星の動き、それにはというのだ。
「おかしなことに」
「しかし退く動きがですか」
「星に出ています、この場合退くとなると」
「攻める方ですな」
「おかしなことです、しかも」
 雪斎は星の動きをさらに見ていた、そしてそのうえで蜂須賀にこうも話した。
「妖星が見えまする」
「妖星ですか」
「はい、その星がです」
「見えるのですか」
「それもやけに目立っておりまする」
 夜空の中でだ、そうなっているというのだ。
「不自然なまでに」
「では」
「はい、退く動きに関係があるのか」
「妖星が」
「そうなのでしょうか」
「妖しい、怪しいですな」
 同じ様な言葉の意味と考えてだ、蜂須賀は雪斎に話した。
「そうくれば」
「松永殿ですか」
「ではそれがし今よりです」
「まさかと思いますが」
「松永めを成敗してきます」
 こう言うのだった。
「そうしてきます」
「いた、それはです」
「なりませんか」
「確かに拙僧も松永殿は危ういと思っております」
 獅子身中の虫だとだ、それどころか天下を乱すとさえ思っている。
「しかし」
「今はですか」
「星の動きだけで成敗していては」
「なりませんか」

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