119部分:第八話 心の闇その九
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第八話 心の闇その九
「あの様なことはあってはならない」
「絶対にだ」
「だからこそ最早許してはおけないのだ」
「彼のやりたい放題はだ」
内閣の首班である首相と宮廷の重鎮である男爵が主張すればだ。影響は計り知れない。どちらの場所でもワーグナーへの反感の念が強まったのだ。
そしてだ。やはりあの話が出た。
「ビューロー夫人との関係はだ」
「あれはどうなのだ」
「清らかなものではないだろう」
「間違ってもだ」
そしてだ。そのことを攻撃するカリカチュアも描かれた。
ワーグナーがコジマを連れて歩きその後ろをビューローがついてくる。楽譜を落としながら。あからさまな風刺画であった。
そのカリカチュアを見てだ。ミュンヘン市民達はさらに言うのだった。
「そういう男なのだ」
「そうだ、ワーグナーはな」
「とんでもない奴だ」
「山師だ」
この言葉が出された。
「あの男は陛下をたぶらかしているのだ」
「国庫から金を好きなだけ引き出して浪費している」
「バイエルンの金食い虫だ」
「あの男の好きにさせるな」
「しかも弟子の妻を愛人にしている」
「そんな男を許せるのか」
人を攻撃するにはその下半身を攻撃すれば最大の効果を得られる。例えそれが事実無根のものでもその人物の評判は確実に落ちる。ましてやそれが事実だったならば余計にだ。
ワーグナーはだ。今その攻撃を受けていたのであった。
その攻撃が強まってだ。流石にワーグナーも平穏ではいられなくなってきていた。苛立ちを露わにさせて信仰する者達に話すのだった。
「偽りだ、何もかも」
「偽りだと」
「全ては」
「ビューロー夫人とのことはだ」
それを話すのだった。
「全て偽りだ」
「しかし陛下、このミュンヘンでは」
「その話題は最早」
「誰もが」
「彼を貶める話だ」
王はこう言って引かなかった。
「それ以外の何ものでもない」
「では陛下、この話は」
「王室としてはですか」
「そうだ、否定する」
言い切った。完全にだ。
「そんなことは有り得ない」
「有り得ませんか」
「絶対に」
「そうだ。有り得ない」
また言う王だった。
「わかったな。ワーグナーとビューロー夫人の間には何もない」
「二人は潔白ですね」
「完全に」
「そうだ、潔白だ」
王はまた言った。
「二人も言っているな」
「確かに」
(しかし)
(あれは)
だが、だった。王の周りもだ。誰もが思うのだった。
(ワーグナー氏は嘘をついている)
(二人の間には既に)
(あの娘の父親は)
(間違いない)
こう思うのだった。
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