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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十八話 民間の愁ふるところを知らざつしかば
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なるように汚しているようにも見えた。

「皇都の皆様!本日はお忙しい中わざわざ本連盟が結成する場にお集まりいただき、誠にありがとうございます。私は皇土解放連盟の準備局長を務めております、藤井勇であります。僭越ながら後送されるまでは陸軍中尉として龍州鎮台におりました」

「本日、私めがこの場に立たせていただいた理由はただ一つ、皆様に誓っていただきたいのです!我々が失った土地を取り戻す事を!」

「そうだ!」「その通りだ!」
 どこか軽々しい声が飛び交う。
――暇つぶし程度の考えできている人間も存外に多いらしい。と考えていた平川の耳に
「帰してください!私たちの家を!!私たちの街を!私たちの誇りを!」

「私の弟が――おとうとが――」

「話して下さい、話してごらんなさい」

「あの賤しい男達です!あの浅ましい兵共です!あいつらは私のととさまの田を奪いました!私の産まれた家を奪いました!私の弟を嗤いながら殺しました!」

「悍ましい‥‥‥なんとも痛ましい‥‥‥」

「そうだ!奴らは私の弟を殺したのです!家族の帰ることころも!弟が帰るところも!もう‥‥‥」「俺の息子は足を失った!もう歩けない!」「私の夫はもう光を感じることができません!一生何も見ることが出来ません!」
 臓躁的な叫び声が観客席から飛ぶ、先ほどまでの軽薄な声はもう聞こえない。観客たちが静まり返り、すすり泣く音だけが響く。
 藤井が手を挙げると職員達が啜り泣く者達をそっと会場の外に連れ出していく。
「諸君!私は諸君らに問いかけたい!我々が奪われ!血を流し!匪賊にように追われた土地を!〈帝国〉に譲り渡して平和を請うべしと言う者がいる!これは愚考か?裏切りか?」
 静まり返った場内を睥睨しつつ藤井は再び吼えた。
「諸君らに問う!女を売りつけ!男達が切り開いた土地を奪った者達はこれを蛮族鎮定と称している!我々は蛮族であり、彼らはこの神聖不可侵たる〈皇国〉に君臨するに相応しき者か!それとも奴らこそ蛮族か!諸君!諸君らは皇主陛下と帝国軍のどちらを選ぶ!」

「何が蛮族鎮定だ!奴らの為すことこそが蛮族だ!奴らを追い返せ!」
「裏切りだ!裏切り者だ!」
「取り戻せ!我々の物を!我々から奪った物を!我々から永久に負わせた痛みを味あわせろ!」
 先ほどまでと打って変わった異様な熱気が燃え広がりつつある。
「皇都の方々よ!願わくば皇主陛下へ我らの嘆きを届けたまえ!前線の将兵へと我らの声を届け給え!〈帝国〉の蛮徒共に我らの怒りを浴びせたまえ!」

「〈皇国〉万歳!」「〈帝国〉に死を!」「〈皇国〉万歳!」「〈帝国〉に死を!」「〈皇国〉万歳!」
 それは憎悪を正義に包んだ何かであった。麻薬のような陶酔感と熱狂が広がっている。

「「「〈帝国〉に死を!!」」」
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