117部分:第八話 心の闇その七
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第八話 心の闇その七
「決してな」
「ドイツ帝国ができるまで」
「それまで」
「鉄と血による統一だ」
ビスマルクの言葉をそのまま話した言葉だった。
「それによるドイツ帝国なのだ」
「ですがそれでは」
「我が国は」
「このバイエルンは」
「それだけは守らなくてはならない」
歩きながらだ。王は言った。
「この国の独立だけはだ」
「はい、その通りです」
「それだけは守らなくては」
「バイエルンの独立は」
「そのことだけは」
「それを念頭に置くのだ」
やはり王はバイエルン王であった。この国のことを誰よりも真剣に考えていた。そのうえでだ。彼は言うのであった。
「それで司令官だが」
「それはなりませんか」
「やはり」
「どうしても」
「そうだ、私は就かない」
それを言うのであった。
「いいな。それではだ」
「兵の士気に関わります」
「陛下が出られないと」
「それでもですか」
「そのことについてもまた話す」
王はまた言った。
「時になればだ」
「その時にですか」
「仰るというのですね」
「兵についても」
「覚えておくのだ。大事なのはだ」
バイエルンにとってだという。まさにそのバイエルン王の言葉だ。
「バイエルンの独立を守ることだ」
「それですね」
「我々にとっては」
「そのことこそが」
「大事なのだ。中においても同じだ」
外交だけではない。内政もだというのだ。王の目は外だけ見ているのではなかった。中にもその聡明な目を向けているのだった。
「それもだ」
「最近プロイセンに接近している者もいますが」
「議会にも閣僚にも」
「彼等は」
「仕方のないことだ」
王の言葉はここでは醒めた。
「それもまた、だ」
「プロイセンに近付いてもですか」
「それはですか」
「仕方ないと」
「プロイセンの勢いは止まるところを知らない」
飛ぶ鳥を落とす勢いである。それを見ればというのだ。
「時代の流れだ」
「時代の」
「それがわかっているからこそ」
「彼等は」
「時代の流れというものはだ」
王はだ。語りながら寂しい顔になった。そこに想うところがあるのを見せていた。
「人ではどうしようもないものなのだろう」
「そういうものですか」
「時代の流れは」
「バイエルンも私もまた」
王はさらに語る。
「その中において」
「どうなると」
「陛下は」
「いや、いい」
語ろうとしたところでそれを止めたのだった。
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