30話:兄貴の独白
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のように思っている。力量もある、それだけに残念だ。
「派閥争いから一線をひいて事の成り行きを見ておったのは、政府関係ではリヒテンラーデ・カストロプ、所領が大きな所ではブラウンシュバイク・リッテンハイムあたりか。軍はミュッケンベルガー家とルントシュテット家を軸にまとまりつつある。うまくバランスを取りながら、せめて崩壊はせぬようにしたい。そうするには、私が表に出ずに、彼ら同士で交渉させて落としどころまで決めさせるしかあるまいな。」
「はい。変に介入するよりその方がよろしいかと。殿下のお気持ちがわかりながらお力になれず申し訳ございませぬ。」
「お主が謝る事ではあるまい。既にゴールデンバウム家は呪われておるのだろう。そう考えれば因果応報よな。唯一絶対の銀河帝国の皇帝が自分の思うように統治も抜擢もできず、ましてや己のしたいことすら自由に出来ぬ。まさに身分とは鎖よ。そういえば、連中は自滅するなどとも言っておったな。どこまで先が見えておるのやら。念のため、しばらくは爪を隠すようにと伝えてくれるか?お忍びで会うのも数年はできまい。心残りは、イゼルローン要塞の主砲試射式だな。皇族で参加できるのは私のみという事で、少しでも気晴らしになればと配慮してくれたのだろうが、今となっては前線に赴くことはできまい。その旨も一緒に伝えておくようにな。」
グリンメルスハウゼンは了承の返答をすると部屋から出て行った。私はレオが入ったグラスを持って窓際に移動する。既に深夜だ。庭園は真っ暗で何も見えぬが、むしろ今の心境には何も見えぬ方がふさわしい。
「自分で望んだ生き方か......。」
あのまま兄か弟が帝位についていれば、私は大公家を立てて、どこかに領地をもらえただろう。そうしたら、統治はRC社に丸投げできて安心だっただろうし、ワイナリーや蒸留所を作り、うまい酒を造ってザイ坊や叔父貴やら親しいものどもを集めて一緒に飲めただろう。ザイ坊の話では肉質がいい牛や豚を掛け合わせ続ける事でとんでもなく旨い肉質の品種をつくれるとか。きっと一緒にそんな事にも時間を割けたに違いない。領民どもも、お忍びと言えば見て見ぬふりをしてくれたはずだ。なんだかんだと皇族の身分ではできぬことも経験できたであろう。
「一度あきらめたが、そんな私にも温かい関係が出来た。皇帝として少しでも帝国の混乱を遅らせる事で、彼らの面倒を減らす。お礼としては分かりにくいが、兄や弟と比べれば私は凡庸なのだ。十分だと、ザイ坊なら言ってくれよう。」
感極まったのか、涙が数滴こぼれる。もはや生きたいようには生きられぬが、共に生きたかった者どもの苦労を少しでも減らせれば私の人生に少しでも意味はあるだろう。
レオが入ったグラスをグッと煽った。
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