第5ヶ条
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をした。もう半分は哀れみの表情。
「いや、何回図書室っていえば満たされるの?って言うか伊笠のその図書室に注がれる異様な情熱はなんなんだ」
花陽は半袖の白い制服ブラウスから伸びた腕を俺の肩にぽんと置いた。
「そんなに情熱が拗れて図書室に向かっているなら、その気持ちをもっともっとビビちゃんに注いで…」
こんな台詞を聞いている最中に俺の耳に搭載されている高反応のレーダーが澄んだ声を後方で捕えた。
「ん…、私のこと呼んだ、かな?」
「あ、ビビちゃん…」
今の状況を冷静かつ客観的に整理してみたいと思う。放課後の静かな廊下で幼馴染と2人、端から見れば仲睦まじくじゃれているとしか思えない光景を。俺の肩の上には幼馴染の手が掛けられている、端から見れば完全にボディータッチが行われている光景を。
「あ、いや、違うんだよ美森っ」
俺は自分が出来る最高の速度で振り返り、弁明を図ろうとした。
「え?…違うって何が?」
美森は俺がこれまでで見たことのない、綺麗だけど儚い、けど可愛い、そんな表情をしていた。あそこまで図書室への情熱を語っていた自分がこんな安易な表現しか出来ないことに絶望しつつ必死に口を動かす。
「いや、あのー、この状況は別に花陽と仲良く遊んでいた訳とかじゃなくてね、その、…説教…をしていてね」
改めて意味不明なことしか言えない自分に絶望の向こう側を見た気がした。
「よくわからないけど、仲良さそうで羨ましいね」
薄っすらと笑みを浮かべた美森の表情が、俺の心臓を貫いた気がした。撃ち抜かれすぎて何も言葉が出なくなった俺に美森が続ける。
「あの、今日は友達と約束があって、一緒に帰れないからそれを伝えに来たの。友達を待たせちゃっているから、あの私、もう行くね。また明日」
小走りで去っていく美森を遠い目で追いながらうなだれる俺に、花陽が『伊笠、うん、なんかゴメン』と呟く。
今日の夜にまたメールをしてみよう。夏休みまであと僅か。彼女と過ごす夏休みが変な雰囲気で始まるのは嫌だからと自分に気合を入れるのであった。
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