102部分:第七話 聖堂への行進その九
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第七話 聖堂への行進その九
「何時か大変なことになるのでは?」
「いや、既になっているとか」
「ワーグナーという者はとかく浪費家ですぞ」
「ああ、そうですな」
「ウィーンでもそうでした」
そのウィーンにいた頃のことがだ。オーストリア貴族達の間から話される。彼等だからこそワーグナーのことを知っているのである。
「とかく金を湯水の如く使います」
「そうした者を重用しているとは」
「あの王は果たして大丈夫なのでしょうか」
「そういえば先の先のバイエルン王も」
彼の祖父のことだ。
「あの女優に入れあげて」
「ローラ=モンテスでしたな」
「そうしてその結果」
「血でしょうか」
血統の話になった。自然に。
「ヴィッテルスバッハの」
「何か。現実のものとは違う」
「そうしたものを魅入ってしまう」
「そうした血でしょうか」
「かも知れませんね」
「やはり」
そう話をするのだった。王や皇后に聞かれないようにして。
しかし王はだ。彼等のその話を聞いていた。そのうえで悲しい目になってだ。周りに控える者達に対してこう話をするのであった。
「聞こえているのだがな」
「静かにさせますか」
「ここは」
「いや、いい」
王はそれは止めた。
「口を塞いでも。心は塞ぐことができない」
「だからですか」
「それでなのですね」
「そうだ。だからいい」
それでだと。王は話したのだった。
「しかし。ワーグナーはだ」
「御気になされぬよう」
「それは」
彼等は王を気遣いだ。こう告げたのであった。
「彼は今はミュンヘンにいます」
「そうして陛下の為に芸術を紡いでいますので」
「そうだ。それはわかっている」
王はだ。彼が今何をしているのかを話されるとだ。悲しみを消した。そうしてそのうえでだ。ここでも芸術に対して語るのであった。
「卿等は薔薇が好きか」
「はい、好きです」
「花はどれも」
そうだとだ。控えている彼等はすぐに答えた。
「その中でもやはり薔薇は」
「素晴しい花です」
「そうだな。私も花は好きだ」
王もだ。それもだというのだ。
「そしてだ」
「そして」
「そしてといいますと」
「バイエルンの色は青だな」
王は次には青という色を話に出すのだった。
「そうだな」
「そうですが」
「確かにその通りですが」
周りの者の言葉は今度は今一つはっきりしないものになった。歯切れが今一つのものになっていた。そのうえで答えたのである。
「ですが。何故それを今」
「薔薇と共に仰ったのでしょうか」
「陛下、それは何故」
「青い薔薇だ」
王はだ。ここでこの言葉を口に出したのだった。
「青い薔薇なのだ」
「ワーグナーはですか」
「陛下にとってそれなのですね」
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