84部分:第七話 二人の仲その九
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第七話 二人の仲その九
「そうだったわよね」
「はい、太宰はそうです」
「このこと自覚したことないのよ、名前のことは」
「そうなんですか」
「そうなのよ。こいつの名前は地名だけれどね」
「俺か」
狭山が応えてきた。その彼がだ。
「大阪の狭山市だよな」
「そうよ。あんた実家は違ったわよね」
「親父の実家もお袋の実家も神戸だぜ」
「じゃあ一緒よね」
「そうだよ、生粋の神戸人なんだよ」
名前とは違ってだ。そうではないのである。
それでこう話してだ。狭山はここでまた言った。
「それで西堀さんの言うその店さ」
「はい」
「何処なの?それで」
店の話に戻った。
「よかったら教えてくれないかな」
「須磨の方です」
「須磨の方なんだ」
「そこの駅で」
駅名も話す。すると声をあげたのは狭山ではなく津島だった。彼女がその駅の名前を聞いてすぐに驚きの声をあげたのだった。
「えっ、その駅前のお店っていったら」
「何かあるんですか?」
「私の叔父さんのお店よ」
そこだというのだ。驚きの声をあげながらの言葉だった。
「そこって」
「えっ、そうだったんですか」
「一応系列のお店で」
こうも話した。
「うちのお父さんの弟でね。そのお店なのよ」
「叔父さんのだったんですか」
「奇遇よね」
思わず言った椎名だった。
「本当に」
「ええ、言われてみれば」
月美も彼女のその言葉に頷く。
「本当に」
「うちはケーキ屋なのよ。けれど叔父さんってパンを作るのも好きで」
「そのお店ケーキも美味しいんですよ」
「そうそう、腕がよくてそれで独立して」
「お店とても繁盛していますよ」
「いいことね。まさか西堀さんのお家の近くだったなんて」
このことを知って微笑むのだった。津島はにこにことしながらパンを食べる。彼女が今食べているのはチョコレートパンだった。
「本当に奇遇よね」
「そうですよね。まさかと思いますから」
「それによ」
また狭山が言ってきた。
「そんなに美味いパンだったら本当にな」
「食べてみたいのね」
「ああ、このパンも悪くないけれどな」
狭山が食べているのはロシアパンだ。大きなそれを牛乳と一緒に食べているのである。そのうえで話に加わっているのである。
「それでも。美味いって聞いたら」
「食べてみたいのね」
「当たり前だろ?」
横にいる津島に対してすぐに返す。
「そうと聞いたらな」
「わかるわ。叔父さんのパン是非ね」
「御前も食ってみたいんだな」
「勿論よ。じゃあ放課後にね」
「おっ、早いな」
まさに急展開だった。津島は決断も行動も速いようである。
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