第一章
第8話 神託
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
今日も午前中は図書館に来ていた。
今回は一人ではなく二人。連れが右横の席に座っていた。
現在、俺のほうはもう疲れてしまい、背もたれに体重を預けたままぐったりとしてしまっている。
久しぶりに頭をガンガンに使ったので、もう限界だった。
「ケッカン、ケッカン」
ああ、俺は子供にも欠陥人間だと思われているのか。
内定も無事もらって、就職先も決まっていたのに。何という転落人生だ。
……と思ったら。どうも違ったようだ。
右横に座っている少年が、俺の右腕を両手でつかんで自分の前に引き寄せ、前腕をじーっと眺めたり、指でなぞったりしてくる。
くすぐったい。
どうやら『欠陥』ではなくて『血管』だったらしい。
「人の血管を見て楽しいのか?」
「ボクの腕は血管見えないもん」
「もう少し歳を取って、体を鍛えると見えるようになると思うぞ? 太ってしまうと見えないと思うけど」
「ふーん……」
この少年の名はレン。
やや短めの黒髪で、外見は外での遊びが大好きな男の子というイメージなのだが、実は孤児院では一番のインドア派である。
本が大好きで、この図書館にもよく来ていると言っていた。
現在十歳らしいので、いつも「あーん」をしてくるエドと同い年ということになる。
いつも午前中に通っている修行先が、今日はお師匠さんの都合で休みらしい。
俺が図書館に行こうとしたら「ボクも行く!」となり、一緒に来ていた。
俺がクタクタなのは、とある本を集中して一気に読んだからだ。
レン少年はその勉強好きな性格のせいか、歳の割にかなりの博識である。
そして図書館の本や郷土資料などについては、だいたいどこに何が置いてあるか覚えていたりする。
そこで、ここで資料を探すことになった経緯を彼に簡単に説明し、「何か心あたりのものがあったら教えてくれないだろうか」と気軽な気持ちで頼んでみた。
するとレンは三十分近くに及ぶと思われる長考に沈んだ。
今まで読んだ本の記憶を探っていたのだろう。
そこまで考えてくれると思っていなかった俺は慌てた。
「そこまで無理して考えなくてもいいよ」と言おうとしたが、真剣そのものな表情を見て、声がかけられなくなってしまった。
そして長考明けに「これはどうかなあ?」と言って持ってきたのは、今から二百年以上前にこの国の全土地図を作ったと言われる人物、ヤマガタという男の伝記だった。
俺は最初、意味が分からなかった。
「これがどうしたの?」と聞いた。
すると、「この人は十二年で全土地図を作ってる」とレンは答えた。
彼の感覚では、それは速すぎて少し不自然に感じるということなのだ。
なるほど、と思った。
例えば伊能忠敬は地元
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ