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歌集「冬寂月」
五十九

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 人もなく

  憂きし夜に降る

   片割れの

 朧げに傾く

     月を見しかな



 誰もいない…。

 あの人の影も…ない…。

 私は生きるのが下手なのだろうな…。

 この世は憂いばかり…そんな世界に、片割れの月は何を思うでもく、ただぼんやりと淡い光を落として傾いて行く…。


 私は一人…それを見つめる…。



 侘びし夜に

  人のさゞ波

    寄せる波

 月も虚しく

     影もなかりき



 何も心の拠り所を見つけられない夜…寂しさに外へと出ても、帰る途中なのか遊びに出て来たのか、多くの人が波打つ様に歩いている…。

 そんな風景を見ていると、無性に寂しくなり…空を見上げれば、月は雲間に幽かに浮かんでいた…。


 ここは故郷ではないのだな…あの人の影も思い出も…ここには何もないのだな…。




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