暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 7
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だわ)りとか、は」
 「俺自身の話なら、特に無いな」 
 「……あー……そっかぁ……うん、解った。解りたくなかったけど、解ったわ。うん。その姿でお願い」
 「分かった」
 私の承諾を得て厨房へと入って行くレゾネクト。程なくして、木箱を開く音と詰め物を取り除く音が聞こえてきた。ちゃんと指示通りに手で作業するらしい。
 「良いんですか? これで」
 「良いのよ。なにもかもが私の所為だったって、改めて自覚したからね」
 「聖天女様、の?」
 そう。
 アルフリードが最後に間違えてしまったのも、アルフリードの記憶を見たレゾネクトが私を暴行したのも全部。短慮で脆弱だった私の所為なのよ。
 あの日の私に言ってやりたい。

 下手な誘惑なんて、するもんじゃない。と。

 「リースリンデはレゾネクトの近くに居たくないでしょ? 寝室に戻っても良いわよ」
 「いえ! 聖天女様は私がお護りします!」
 自身も怖くて仕方ないでしょうに、背中の羽をピンと伸ばして私の左腕にしがみ付き、厨房内のレゾネクトを精一杯牽制する可愛い精霊。
 威嚇された当の本人は此方(こちら)に背を向けて、木箱から取り出した百合の根を丁寧に水洗いしてる。女性らしい魅力溢れる曲線で構成された肢体には不釣り合いに見えるけど、白い首筋が覗く程度の短い髪は、調理場に立つ為の配慮よね。さらっと小技を利かせる所が心底憎たらしい。
 「ありがとう。じゃあ、百合の根の下拵え方法、教えてね?」
 「はい!」
 小さな頭をそっと撫でて木箱の群れに足を踏み入れる。
 再度流れてきたアーレストさんのお説教を背景音楽に、着々と進んでいく百合根感謝の日の下準備。
 実の娘に捧げられる祭事をこの顔ぶれで迎えるって、なんとも言い難い複雑な気分だけど……
 「貴方……いえ、貴女には負けないわよ! レゾネクト!」
 「勝負事なのか?」
 「私が剥く数と合わせれば、聖天女様の勝利は揺るぎません!」
 「二対一での勝利は嬉しいものなのか?」
 悪魔と精霊と女神の手で一枚一枚剥かれては、(ざる)の中で積み重なっていく白い鱗片。
 もう一度水で洗い、下茹でしたり蒸したり焼く用に取り置きして、最後に人間が手を加え、料理を完成させる。
 数千年前ではありえなかった、もしかしたら「奇跡」とも呼べる一幕。
 憎悪と嫌悪に塗れて当たり散らす毎日よりは
 「…………悪くない、かもね」
 「そうか。嬉しいのか」
 「そっちの話じゃないわよ、ばか。」





vol.9.5 【余談】

 炊き出し会場に突如現れた謎の美女。
 アーレスト神父と並び立つその姿はまるで絵画のようだと街民達の話題をさらい、二人の前には噂を聞きつけた人々が、一目見たさで分配開始前から長蛇の列を作り上げたという
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