閑話:帰りを待つもの
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掃除しても、帰ってくるころにはまた汚れちゃいそうだよね」
「そんなに遠くです?」
「うん。凄く遠いみたい。イゼルローン回廊? って、ところ」
やや疑問を浮かべながら、アイラは言葉を口にした。
知っているかと問いかけられて、マウアは頷いた。
「うん、ニュースで見たよ。イゼルローン要塞で、大きな戦いがあったって」
「さすがマウアちゃん。勝ったのかな」
「私も見ました。勝ったっていってたですよ。きっとアイラちゃんとママが活躍したのですよ」
「でも、ママはあんまり嬉しそうじゃなかったなぁ。疲れてるのかな?」
「んー」
マウアはニュースを思い出すように、唇に指をあてて、考えた。
「外壁は破壊したっていってたけど、占領したわけじゃないらしいから。悔しかったのかな」
「あるかも。ママ、完璧主義だから。いつもパパに手加減無用っていってるし」
「アイラちゃんは、間違いなくお母さん似なのですね」
ファリンが納得したように頷けば、三人は楽しそうに笑い合った。
どこにでもあるような普通の光景――だが、そこで語られるのは戦争の話題だ。
アイラの母親が戦場に行くように。彼女たちにとって戦場はまさに身近にあり、幼いながらに口にすることは決して不思議なことではなかった。
誰だって、自分の身近な人の話題が大切なのだ。
「でも、マウアちゃんのお兄ちゃんも軍にいるんだよね。いまどこにいるの?」
「うーん。それがさ」
アイラの言葉に、マウアは眉をさげた。
「お母さんもお父さんもお兄ちゃんが何しているか教えてくれないんだ」
悲しそうに、そして若干の拗ねをマウアは見せた。
心配するからというのが、その理由であったが、マウアにとっては不満が大きい。
兄の活躍を常に知りたいし、危ないというのであれば、なおさら知りたいと思う。
もっとも、それはカプチェランカでアレスの生死が一時分からなくなった時に、マウアがひどく取り乱したからであり、彼女が原因によるところなのだが。
「お兄ちゃんからも最近連絡がないし、どうしてるんだろう」
「ほ、ほら。便りがないのは、良い便りなのですよ」
「そうそう。お兄さんは大丈夫だよ。マウアちゃんが言うくらい賢いんでしょ……あ!」
と、アイラが話題を変えるように、明後日の方向を指さした。
「ど、どうしたのです?」
ファリンが合わせるように視線を向ければ、そこには学校の友人の姿があった。
ユリアン・ミンツだ。
道路の反対側を見知らぬ中年の男性と一緒に歩いている。
スーツ姿に真面目そうな姿は、一見すれば父親にも見えなくはない。
だが、彼の父親は二年前に亡くなっているはずであり、それ以降は彼の祖母と二人で暮らしていたはずだ。
「おじさんとかかな」
ア
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