閑話:帰りを待つもの
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はっきりと整った顔立ちに、初等科の学生服をきっちりと着こなし、歩く様子をみれば、教壇上で教師がにこやかにほほ笑んだ。
「九十五点。さすがね――綴り間違いの小さなミスがなければ、百点も狙えたわよ」
「ありがとうございます」
と、頭を下げて答案を受け取れば、振り返った視線が隣席の友人を捉えた。
アイラ・オーウェンだ。
先ほどまでの落ち込んでいた様子はどこかへと消えており、自分だけに見えるように、やったねと手を振っている。
そんな彼女はつい先ほど41点の最下位をたたき出し、いまだ継続更新中であるのだが。
席に着くと、身を少し乗り出して、隣席の友人は感心したように話しかけた。
「凄いね、マウアちゃん」
自らの成績はどこかへとおいやりながら、友人が素直に感心を言葉にできるのは彼女の良いところだ。
照れたようにマウアは小さく苦笑を浮かべた。
「ちょっと間違えちゃった」
「ちょっとならいいじゃない。私なんて綴り以前の間違いだよ?」
そう言って見せられたテストは、バツ印が並んでいた。
その中央で、一際大きい罰がある――建国の国父に似た名前だ。
アーレイ・ハイネセンと。
それは、誰なのか。
「ええ……」
さすがのミスに、答案を二度ほど見てから、友人の顔を見る。
あっけらとした二つの瞳が、マウアを見ていた。
「さすがにまずいと、思うよ?」
むしろ、あの教師があの説教だけで良く終わったなと思う。
だが、勉強よりも、運動が大好き、それ以上に遊びはもっと大好きな彼女のことだ。
今まで怒られ過ぎて、さしもの教師のお説教レパートリーも品切れだったのかもしれないと、マウアは思った。
「いいんだもん。ここは自由の国だから。帝国と違って、間違えたくらいで殺されることなんてないもん」
「殺されることはなくても、お説教はあるかもです」
そっと背後からかかった声は、後方にいた友人のものだ。
忠告するようなささやき声に、二人は視線を前に向ける。
鬼がいた。
彼女たちの声は、少しばかり大きかったらしい。
答案の返却の途中で、教師が睨むようにアイラとマウアを見ていて、慌てて、姿勢をもとへと戻した。
おそらくは怒声が飛ばなかったのは、優等生であるマウアが一緒にいたからだろう。
「62点……ね。授業中は真面目に聞いておくこと。次」
そのお説教は誰に向けられたものなのか。
怒りを押し殺した声をだせば、しわが付いた答案を渡して、教師は次の名前を呼んだ。
「ユリアン・ミンツ」
「はい」
と――立ち上がったのは亜麻色の髪をした少年だ。
まだ幼い顔立ちは、ともすれば女性にも見える穏やかな表情。
ブラウンの瞳が一度瞬きをすると、立ち上がって教壇の前に
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