第一章
第5話 町長の提案
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さて……退院だ。
俺はチノパンにパーカー姿。ぶんどられたボクサーパンツ以外は入院前の格好に戻っている。
クロのほうは相変わらずの首輪姿。
見送りは女医だけだ。白衣姿のまま、診療所の玄関外まで来てくれている。
カイル少年は朝早くから孤児院に出勤しているので、今はいない。
が、昨日も例によって病室に泊まっているので、既に挨拶は済ませていた。
「この町からいなくなっちゃうわけじゃないよね?」
と繰り返し聞かれたが、今この町を去っても行くあてなどない。しばらくはいることになるだろう。
「色々お世話になりました。入院費って本当に払わなくて大丈夫なんですか?」
「ええ。それが当たり前だから気にしなくて大丈夫よ」
この町に限らず、この国では診療所でいくら治療をしても本人負担は原則ゼロ。全額公費でまかなわれている。
病気をしたらみんなで助け合いましょうという精神らしい。
ただ、基本的には健康な人が多いため、普段はあまり忙しくないとのこと。
「それより、またここに戻ってこないように体には気を付けないとね」
「あ、はい」
「クロちゃんも元気でね」
クロはじっと女医を見つめることで答えている。
霊獣などではなくただのペットであると何度も説明した成果か、この女医は途中から「クロちゃん」と呼ぶようになった。
町の人たちはまだ勘違いしている人が多数だが、いまさら説明して回ってもキリがない。
正しく理解している人から情報が回って、自然に訂正されることを期待する。
「じゃあ、しっかり町長と相談するのよ。頑張って」
そう。この後は町長のところに相談に行くことになっている。
結局、今後のことについては自力で考えをまとめることができなかったためだ。
話によると、通常であれば、他の町からの転入は役場で手続きをして終了らしい。
しかし、俺は普通の転入者ではない。
この国のことを知らない、この町のことも知らない、右も左もわかりません、資産もありませんという状態である。
記憶喪失者が裸一貫で突然やってきたのと大して変わらないため、事務手続きをしただけではどうしようもない。
カイルは「オレのとこに来ればいいじゃんかー」とか言っていたが……。
どうにもならないとなれば、最後の手段としてしばらく少年に甘えさせてもらうことも仕方がないかもしれない。
だが、その前に何か手がないのかは確認しておきたい。
元の日本に帰る手段がなかなか発見できず、こちらでの生活が長引く可能性もある。最悪のケースとして永遠に帰れない可能性すらある。
そして帰る手段を探すにも、この町で手がかりなしとなれば、他の町に行かなければならない。
そうなると旅費なども必要になる。
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