56部分:第五話 部活でその五
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第五話 部活でその五
「それですね」
「何か椎名と同じこと言うな」
「新ハムレットも本当にいいですよ」
この作品を出して来たのも同じだった。
「それで何にされますか?」
「そうだな。じゃあそれにするか」
「御伽草子ですか」
「ああ、それにさせてもらうよ」
微笑んで応えた言葉だった。
「じゃあそれでな」
「はい、わかりました」
こう話してそのうえでその本を買ってだった。陽太郎は月美と一緒に店を出た。二人並んで店を出てそのうえで話をするのであった。
「それなのですけれど」
「それで?」
「太宰はとにかく中期の作品がいいですから」
「へえ、そんなにいいのか」
「愛ちゃんも言ってましたよね」
月美は椎名の名前をここでも出してきた。もうすぐ夜になろうとする夕暮れの世界の中でだ。二人並んで歩きながら話をするのである。
「中期の作品がいいって」
「あいつが西堀に教えたのか」
「そうなんです。それで実際に読んでみて」
「中期がよかったのか」
「前期も後期もいいですけれど」
どちらもいいというがそれでもであった。
「中期が一番好きなんです」
「走れメロスは何時頃の作品なんだ?」
「あれも中期です」
即答だった。
「他にもその御伽草子もそうですし富岳百景も津軽もですよ」
「中期にいい作品多いんだな」
「太宰に駄作はありません」
今度はこんな言葉を出してきた。この言葉から彼女が本気で太宰に入れ込んでいることがわかる。そうでなければ言えない言葉だった。
「けれど中期は特にです」
「そうか、じゃあ中期か」
「はい、是非読んで下さい」
「わかったよ。じゃあ家に帰ったら早速な」
「はい」
こんな話をして楽しく帰っていた。しかしであった。
その二人の後姿をだ。見ている者達がいた。
「何、あれ」
「西堀よね」
「そうよね」
州脇の野上、それと橋口だった。その三人が後ろから見たのだ。三人は駅前の店を見回って遊んでいた。その時の帰りだったのである。
「あいつもう男引っ掛けたの?」
「ふん、何さ」
「フェロモン撒き散らしてね」
「早速男騙すなんて」
「信じられない奴ね」
「全くよね」
こう口々に言うのだった。そして相手を見る。ただし暗がりの中なのでその姿はあまり見えない。そのうえでの話であった。月美は何とか見えている。
「それにしても相手は」
「あれ誰かな」
「何年かしらね」
いぶかしみながら見る。そして制服をまじまじと見る。
「ええと、長いわよね」
「うん、長いわね」
「色は青ね」
ここまではわかった。
「青くて丈の長い制服ね」
「それじゃあうちの生徒みたいね」
「そうよね。あの制服ってうちの制服の一つよね」
それぞれこう話していく。
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