巻ノ百五十一 決していく戦その十一
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「相打ち、いやわしの負けか」
「そう言われる理由は」
「わしの獣達が負けてじゃ」
そうしてというのだ。
「お主の明王が残ってな」
「それで消えたからですか」
「確かにお主の明王も傷ついたが」
それでもというのだ。
「わしの獣達が倒されたのじゃ」
「だからですか」
「わしの負けじゃ」
こう言うのだった。
「紛れもなくな」
「それでな」
「わしは敗れた」
それ故にというのだ。
「首はやろう」
「いえ」
筧は幻翁のその言葉を静かな声で断った。
「それはいいです」
「よいのか」
「はい、それがしは勝てばよかったのです」
「わしに足止めをさせずか」
「そして勝つ」
今の戦にというのだ。
「それが目的だったので」
「だからか」
「はい、首はいいです」
「そうか、ならばな」
「もうこれで、ですな」
「わしは止めぬ」
一切とだ、幻翁はその場に止まって言った。
「負けたからにはな」
「死んだも同然なので」
「そうじゃ、勝った者を止める資格はない」
だからこそというのだ。
「お主は先に行け」
「お言葉に甘えまして」
「それではな」
「おさらばです」
筧は最後にこう言ってだ、そしてだった。
幻翁に別れの言葉を告げた後で幸村のいる場所に向かった、戦が終わった彼は彼の主を迎えに行った。
明石は弓矢を放ち続けた、そうして。
侍や忍達を寄せ付けなかった、その彼を囲んでだ。
侍達は唸ってだ、こう言った。
「ううむ、何と恐ろしい弓の腕か」
「恐ろしい腕だ」
「一発放てば必ず当たる」
「まさに百発百中」
「恐ろしい腕だ」
「そしてな」
「あの腕はな」
「恐ろしい腕だ」
「しかもな」
それだけでなくというのだ。
「矢はとうの昔に尽きておる」
「それでも放ってきておる」
「ではあれは」
「噂に聞く」
「左様、異朝の古典にありましたな」
その明石が言ってきた。
「それがしはそれを使いました」
「まさか」
「まさか弓の術に奥義」
「矢を使わずとも放つ」
「その術を使いましたか」
「左様です」
まさにというのだ。
「拙者は今は弓で気の矢を放っています」
「何という御仁か」
「矢が尽きても気を放つとは」
「まさに名人」
「神技の域に達しておる」
「神技を使わねば」
それこそというのだ。
「拙者も勝てませぬので」
「だからと言われるか」
「必死に戦い」
「そして」
「そのうえで」
「貴殿等を足止めしております」
気の矢、それを放ってというのだ。
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