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彼願白書
逆さ磔の悪魔
インシデント
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配置!直上の警戒を厳とせよ!」

「各部エア、戦闘配置!」

電子音のアラートが鳴り響く。
本来ならなんの確証もない、無意味な行動だろう。
しかし、『そうあってほしい』と思うくらいには、熊野の胸の内はざわついていた。
この行動は無駄なハズなのに、そうならないような気がしてならない。

「提督……」

それより、なにより……

「なんだ?熊野。」

「いえ、なんでもありませんわ。」

壬生森が、特等席に座る。
アームレストに肘をついて、頬杖して、つまらなさそうな顔でディスプレイを見つめる。

この艦の中で、彼だけは既に戦闘を始めているのだ。
私達よりも、遥か先に。

私は、未だに彼の後ろを歩いている。

「ブルネイ鎮守府に通信を。通常のチャンネルでダメなら、どのチャンネル、どの手段を使っても構わない。それとネガスペクトラム観測を、こちらに向かい始めてから今日までの履歴込みで。」

「了解。」

壬生森の要請を、艦長がそれぞれに割り振る。
熊野が実際に見ることは、これが二度目。
周りがどれだけ代わっても、彼だけは、以前の姿のまま。

なのに、彼の隣がまだ、遠い。









「大淀、壬生森が来るのは今日だったな?」

「はい、今日の夕方に到着予定のハズです。如何なさいますか?」

金城は、久方ぶりに苛立ちを隠さない表情で窓の外を見る。

「地上で生きてる外への通信手段は、明石がなんとか使えるように修復している旧式の無線だけか。」

「はい、これもテスト出来てないので、実際に使えるかは……」

金城の見ている窓の外は、ところどころが抉られた景色。
焦げ跡、瓦礫、そしてあちこちに燻っている煙。

「……使えるのを、祈るしかねぇだろ。」

金城は何度握り潰しかけたかわからないタバコの箱を、内ポケットから出す。
苦々しくタバコを咥えた顔からも、苛立ちが露だ。

「ネームレベル、かくも厄介なものとは……実際に相手すると、ウンザリしますね。」

火を着けたタバコは、端から早回ししたように瞬く間に灰に変わっていく。
口の端から漏れる煙は、怒りの噴煙。
フィルターが、噛み千切れる。
大淀が久方ぶりに見る、金城の憤怒だ。
恐らく、これでも自制に自制を重ねてのものだ。
腸が煮えくり返るどころではないだろうことは、察しが着いた。

「……奴には、この借りは兆倍にして返すぞ……」

口元から千切れ落ちたフィルターとタバコの灰を、そのままキャッチして握り潰し、唇に残ったフィルター共々、まとめてデスクの上にある灰皿に投げ捨てる。
これほどの怒りを、金城も久方ぶりに覚えた。
これほどの怒りの原因は、ブルネイ鎮守府始まって以来の最大の失点だっ
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