第一章
第1話 違和感
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ないか? と提案したら「お前が前だ」と一蹴された。
その後は特に会話がない。
非常に気まずい。
良く考えてみれば、俺が言いつけを破って散歩を勝手に切り上げなければ、崖から落ちることもなかった。
やたらワンワン吠えていたのは、クロが崖崩れの前兆を感じ取ってそれを知らせていたのだと思う。
クロは完全に俺の巻き添えをくらっている。やはりご立腹だったりするのだろうか。
あまりにも日常とはかけ離れたことが起きていたので忘れていたが、俺は巻き添えにしたことへのお詫びを言っていない。
しかも、クマの襲撃から助けて貰ったことへのお礼も言っていなかった。
言葉が通じる以上は言わないとまずいだろう。
「クロ、言い忘れていて申し訳な――」
「下がれ」
「うえぇ?」
「何か近づいてくる」
「……!」
俺は謝罪すらも許されないのか、と一瞬思ったが、どうやら違うらしい。
言われたとおりに下がった。代わりにクロが前に出る。
――今度はなんだ?
音は特に聞こえなかったし、もう日がだいぶ傾いてきているせいで視界もよくない。
そのため、俺には何もわからない。
犬ゆえに感覚が鋭いであろうクロしか気づけていないのだ。
「気を付けろ」
いや、俺は人間だぞ……? 相手がさっきのクマみたいな野生動物だったら、何をどう気を付けるんだ。
心の中でそう突っ込みを入れていると、灰色の塊が木々の間から次々と現れた。
「あれ、犬?」
現れたのは灰色の犬たち。そこそこ大きい。
そしてそれらの視線は、鋭くこちらを射抜いていた。
「……って、これ……オオカミ……?」
いや、確か日本にオオカミはいないはずだ。
ということは野犬か?
この表情……俺らを襲う気満々じゃないか……。
見えているだけで、五〜六匹はいるようだ。
人間の俺は、とてもではないが逃げられないだろう。
また足が震えてきた。
「く、クロなら話は出来ないのか?」
「……駄目だ。通じない」
詰んだ。
「来るぞ」
真正面にいる一匹が、前にいるクロめがけて突っ込んできた。
そして他の個体も続いて襲い掛かってくる。
クロが一匹目の首を素早くとらえ、噛みつく。
そしてすぐに二匹目に体当たりして怯ませ、その反動を利用するかたちで次の敵へと向かう。
他の個体も次々と襲い掛かってきたが、クロはそのすべての攻撃をひらりと躱し、敵がターンした隙を狙って噛みつき攻撃や体当たりを入れていった。
クロが予想以上に手強いと見たのか、一度野犬たちが退いた。
俺たち半円状に取り囲む態勢に戻る。
これで諦めてくれればという期待を持ったが、やはり甘かった。
しばら
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