第一章
第1話 違和感
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もう逃げられない。射程範囲内だ。
迫ってくる。大きい。
食われる――。
ドン――!
横から白い塊が飛んできて、クマにぶつかった。
クマが一瞬怯む。
白い塊は着地後、少し離れてクマに向き直る。
飛んできた白い塊は……犬だった。
そして首には、見覚えのある首輪。
「く、クロ……」
その犬は、クロだった。
そのままじっとクマを睨み付けている。
しばらく睨み合いが続く。
そしてクマが視線を外した。
そのまま、木が生い茂る森のほうに帰っていく。
……た、助かったのか?
クロが放心状態の俺のほうに向く。
そして――。
「リク、大丈夫か」
「うわあああああっ!」
「怪我はないか」
「く、来るな!」
そのあまりの現実離れした出来事に、俺は尻を落としたまま後ずさっていた。
「どうした」
「な、なんで喋ってるんだ!」
「私は前から喋っている」
「そうじゃない! なんでお前のしゃべっていることが俺に通じるんだ! おかしいだろ!」
「なぜ今まで通じなかったのだ?」
「……」
「オトウサン、ヨシコ、チカコには通じていた」
「それは! いつもお前の面倒を見ていたから大体わかっていただけだろ! 喋っていたことがそのまま通じていたわけじゃない!」
オトウサンというのは父の一郎のことだろう。良子は母、千佳子は姉だ。
俺以外の家族は、いつもクロの世話をしていた。大体何を考えているのかはわかっていたと思う。
しかし、決して人間同士のように会話が通じていたわけではない。
どうなっている。
動悸が激しい。呼吸が苦しい。
落ち着け……。
……そうだ。家族といえば。
クロがここに現れたということは、家族と一度合流したのだろうか。
聞いてみたほうがよいのか?
正直、今のクロを目の前にして、合流できた安堵よりも恐怖が圧倒的に上回っている。
が、ここはまず、状況を確認して次の行動に移るべきだろう。
少なくとも、この場で尻餅を付いたままでは何も進まない。それだけは確かだ。
深呼吸。
……よし。
「えっと。クロ?」
「何だ」
……やっぱり喋っている。
日本語ではないと思う。しかしこちらには日本語で伝わる。
気持ちが悪い。
「今までどこに行ってたんだ?」
「他の家族を探していた」
クロも一緒の場所に落ちたが、俺が起きないので家族を呼びに行ってくれたということか。
「探していたということは、会えたのか?」
「いなかった」
「いなかった……? 詳しく聞かせてくれ」
崖崩れの後から今までのことを、最初から詳
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