暁 〜小説投稿サイト〜
緑の楽園
第一章
第1話 違和感
[3/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

 もう逃げられない。射程範囲内だ。
 迫ってくる。大きい。

 食われる――。



 ドン――!



 横から白い塊が飛んできて、クマにぶつかった。
 クマが一瞬怯む。

 白い塊は着地後、少し離れてクマに向き直る。

 飛んできた白い塊は……犬だった。
 そして首には、見覚えのある首輪。

「く、クロ……」

 その犬は、クロだった。
 そのままじっとクマを睨み付けている。

 しばらく睨み合いが続く。

 そしてクマが視線を外した。
 そのまま、木が生い茂る森のほうに帰っていく。

 ……た、助かったのか?

 クロが放心状態の俺のほうに向く。
 そして――。

「リク、大丈夫か」
「うわあああああっ!」
「怪我はないか」
「く、来るな!」

 そのあまりの現実離れした出来事に、俺は尻を落としたまま後ずさっていた。

「どうした」
「な、なんで喋ってるんだ!」
「私は前から喋っている」
「そうじゃない! なんでお前のしゃべっていることが俺に通じるんだ! おかしいだろ!」

「なぜ今まで通じなかったのだ?」
「……」
「オトウサン、ヨシコ、チカコには通じていた」
「それは! いつもお前の面倒を見ていたから大体わかっていただけだろ! 喋っていたことがそのまま通じていたわけじゃない!」

 オトウサンというのは父の一郎のことだろう。良子は母、千佳子は姉だ。
 俺以外の家族は、いつもクロの世話をしていた。大体何を考えているのかはわかっていたと思う。
 しかし、決して人間同士のように会話が通じていたわけではない。

 どうなっている。

 動悸が激しい。呼吸が苦しい。
 落ち着け……。

 ……そうだ。家族といえば。
 クロがここに現れたということは、家族と一度合流したのだろうか。

 聞いてみたほうがよいのか?

 正直、今のクロを目の前にして、合流できた安堵よりも恐怖が圧倒的に上回っている。
 が、ここはまず、状況を確認して次の行動に移るべきだろう。
 少なくとも、この場で尻餅を付いたままでは何も進まない。それだけは確かだ。

 深呼吸。

 ……よし。

「えっと。クロ?」
「何だ」

 ……やっぱり喋っている。
 日本語ではないと思う。しかしこちらには日本語で伝わる。
 気持ちが悪い。

「今までどこに行ってたんだ?」
「他の家族を探していた」

 クロも一緒の場所に落ちたが、俺が起きないので家族を呼びに行ってくれたということか。

「探していたということは、会えたのか?」
「いなかった」
「いなかった……? 詳しく聞かせてくれ」

 崖崩れの後から今までのことを、最初から詳
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ