暁 〜小説投稿サイト〜
戦闘携帯への模犯怪盗
OPENING2:アローラ、俺にとっての平凡な異世界
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 アーカラ島、コニコシティ。コンクリートではなく石によって舗装された地面と、木造の建築物が並ぶ町。
 その外れ、海を見下ろすことのできる広場で一人の青年が竹刀を振っていた。薄い紺色の胴着をつけ、よく使いこまれた武器を振るう様は青年の鋭い目つきと相まってただの素振りなのに対戦者が彼の前にいるような気迫を感じる。ウォーキングをしている町の人も、自然とその広場に入ることを避けている。
 上段から振り下ろし前頭部を。手首のスナップを利かせて腕を。踏み込みを入れつつ横から銅を。まるで槍でも扱うかのように前に突き出し、その首を。何もない空間にいる相手を、青年は一本一本時間をかけて、確実に捉えている。
 もう一時間以上青年はそうしている。まだ朝九時であるがアローラの日差しと相まって額には汗がいくつも流れ、呼吸も熱くなっているが、太刀筋は揺るがない。
 そんな彼に、一人の少女がぱたぱたと音を立てて声をかけてきた。

「し、島キング様〜!大変です、お手紙から怪盗さんです!!」
「……ふう。逆だ、アネモネ」

 ふんわりした桃色の髪を背中まで伸ばした、青年より頭一つ以上小さな女性──アネモネは、右手に手紙、左手に水筒を持っているせいか走る挙動が危なっかしい。案の定派手にけつまづいたのを、すでに予測して前に出ていた青年が体で受け止める。

「あ……ごめんなさい。また迷惑をかけてしまって……」
「いつものことだ。……それと、リュウヤでいい。家にいる時と同じように」

 アーカラの島キングである青年──ウラシマ・リュウヤはアネモネが立ち直るのを支えて、訂正する。

「でもリュウヤを……島キング様を外で呼び捨てにしたら、周りが何というか」
「何か言われたとして気にする必要がない。アネモネは……俺が選んだ人だ」

 無表情のまま、彼女の頭を撫でるリュウヤに対し、花が咲いたように嬉しそうな笑みを見せるアネモネ。そんな様子を、行きかう人々は今日もお熱いねーとか島キングの大将も大変だな、みたいな目で見ている。少なくともアネモネに対し不快の色を示す人はいない。
 リュウヤとアネモネは婚約を結んでおり、二人は小さなジュエリーショップを経営している。リュウヤがディグダトンネルで鉱石を掘り起こし、アネモネが鑑定と研磨(こっちはリュウヤも手伝う)をする役割を担っている。そして休みの日、リュウヤはああして竹刀を振っているのだ。

「いきなりこの世界に飛ばされて右も左もわからない、あげく島の代表者を決める戦いに巻き込まれた俺を一番助けてくれたのはアネモネだ。俺がこのアローラで一生傍にいたいと思う人もアネモネだ。……自信を持て、とは言わない。俺に近い存在であることに、遠慮はしないでくれ」
「……はい、誓って」

 リュウヤは、
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