西暦編
第八話 リミテッド・オーバー@
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自分が罠にかかったことを理解した。
崩れていると思った敵は万全の構えで飛び込んでくる獲物を待ち構えていた。振り下ろされる一撃の速さは、足や腕を斬り落とす前と比べても遜色ない。
何故、という疑問はすぐに氷解した。
存在しない足で踏み込み、失った腕でバランスを取る巨人はしかし、全く体勢が崩れていない。不自然なまでに自然に剛撃を放つ様は、一周回って異様ですらあった。
動きは人間そのものでありながら、人間の構造的縛りを全く無視している。それはつまり――――人体の行動限界など、当てはまらない存在だということ。
「まだだ……、」
不可避の攻撃を前に、それでも僅かな勝機を探る。
まだだ、若葉はまだ死ぬことはできない。
バーテックスに報いを受けさせる、そう誓ってこの二年半もの間、勇者として訓練を続けてきた。数十、数百、今日この時だけで数多の怨敵を斬り伏せたが、その程度で足りるはずがない。
友達を喰い殺し、抵抗できない人々を磨り潰し、人類を滅亡の縁にまで追いやったバーテックス。
奴らに報いを受けさせなければ、
「こんな所で、死ぬことなどできるはずがない―――――!」
若葉の想いが宿ったのか、刀が淡い光を帯びる。
それが何の変化かは分からない。
分からないまま振るわれた刃は、その真価を担い手に見せることはなかった。
「……■■■■■■■■■■■――――!?!」
吹き飛ばされる白い巨体。
若葉と切り結んだ結果ではない。横転したバーテックスを、突き立った剣の生み出す爆風が追い打ちをかける。
「……互いに、苦戦しているみたいだな」
男は、まさしく満身創痍の出で立ちだった。
左手は流血し、身に付けた装束はボロ雑巾のよう。呼吸も荒く、疲労感が滲み出ていた。
それでも、男の眼に曇りはない。
「時間だ。あれの相手は私が引き受ける、代わりに――――――冬木の皆のことを、頼む」
そして、刻限は訪れた。
冬木の魔術炉心、大聖杯の最後の奇跡が、
残り僅かな魔力を費やした、魔法に等しい大魔術が行使される。
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