ファリクス邸の怪 1
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きりと見えた。
痩せぎすの子どものような体躯に、白粉を塗ったかのように真っ白な肌。尖ったら耳と牙は絵物語に描かれる小鬼のようだが、邪悪な感じはしない。
「おいらが見えるみたいだね」
菓子を咀嚼しつつ、ふて腐れたような表情で小鬼がつぶやく。
「ああ、見える。混乱を司る精神の精霊レプラコーンだな」
「あんた、つまらないよ」
小鬼――レプラコーンは秋芳の問いには答えず卓上の菓子に手を伸ばす。そこには奇怪な人面犬の姿はない。林の首吊り老婆も消えていた。
あれらはすべてレプラコーンの作り出した幻だ。
「あんた、なにを見せても怖がらないし、なにをしてもおどろかないんだもん」
「俺はつまらないが、俺の用意した菓子は気に入ったみたいだ」
「うん、美味しいね」
「なぜ悪さをする? おかけでせっかくの良い家なのに人が寄りつかず荒れ放題だ」
「楽しいからさ」
「人の造った建物は人が手入れをしないとすぐに傷む。そうなれば家に憑くこいつらも迷惑だ」
足下で小さな影が蠢く。秋芳の使役しているブラウニーたちが蜂蜜入りミルクを飲んでいた。
「それに、ほどほどにしないと自分が自分でなくなるぞ」
精霊達は意思を持ってはいるが、生物とうよりもエネルギーと呼ぶにふさわしい存在だ。精霊が姿形を、かりそめとはいえ肉体を持って物質界に存在するためには特殊な環境が必要であり、魔術師や精霊使いに召喚されて物質界に現れた精霊は、通常その役割を果たすと元いた精霊界に還る。
使役されずにこの世にとどまれば、彼らは物質界に順応できず物質界のすべてに破壊的な行動をとる狂える精霊と化す。
「俺の目にはおまえがまっとうな意思と自我を持って行動しているようには見えない。まるで強迫観念に囚われて狂奔しているようだ。このままでは狂える精霊となって己を見失うぞ。そうなる前に元の世界に還るべきだ」
「いやだね」
「俺の供物は気に入ってもらえたようだが、頼みは聞いてくれないのか」
「それはそれ、これはこれだよ」
「ココナッツ生地にバナナ、シナモン、アガベシロップを練り込んだ特製のパンケーキだ」
「美味しいね、美味しいよ」
「もらうものだけもらってそれっきり、てのは筋が通らないぞ。それは不義理というやつだ」
「大人はむずかしいことばかり言ってお説教。きらい、きらい、きらい、きらいきらいきらいっ、だいっきらいだよ!」
レプラコーンのとがった人指し指が秋芳に向けられる。
マナの波動を感じ、魔術を使うつもりだ。と思った時にはすでに呪文は完成していた。
人間の魔術師がルーンを発してかける魔術とはちがう。彼ら精霊にとって魔術とは生まれつき持った能力なのだ。かける手順がおなじとは限らない。
秋芳の頭に不可
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