ファリクス邸の怪 1
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「そうだろう、そうだろう。あんなのが出るんじゃ銅貨一枚でも買うのは御免だろう。むしろ金をもらっても幽霊屋敷なんて欲しくない人のほうが多いだろうな」
「ああ、では騎士爵様もキャンセルなさいますか。今ならキャンセル料はなしで――」
「まけろ」
「は?」
「安い安いと思っていたが、事故物件にもほどがある。半額にまけろ」
「あ、あなたも見たでしょう! 今の恐ろしい幽霊を。それなのに正気ですか!?」
「俺のSAN値はいつだって平常値だ。イカもタコも踊り食いできるぜ」
「はぁ……。わかりましたそこまでおっしゃるのなら――」
かくしてフェジテの七不思議に数え上げられるファリクス邸は秋芳の住居となった。
血まみれの子どもが廊下を走り、老人の顔をした赤子が這いずり回る。
女の生首がそこいらを転がり、視線を感じて振り向けばカーテンや本棚の隙間から無数の光る目が凝視している。
血の色に染まった池から怨嗟の声をあげて大量の髑髏が浮かび上がる。
ファリクス邸に住んだ秋芳は、たしかに数多の怪異に襲われた。
だが、怪異とはべつのアクシデントも多数起きた。
いつの間にか廊下に蝋が塗られていたり、丸いガラス玉や木の実がばらまかれて転がそうとする。
食事に大量の塩が盛られる。
寝所に蛇や蛙が投げ込まれる。
カーテンや壁が落書でいっぱいになる。
夜中に突然歌声や怒声が鳴り響く。
いかにも心霊現象といった怪異とはまた異なる、まるで悪童の悪戯じみた現象も多発した。
「こちらのほうは実害があるだけ厄介だな」
召喚したブラウニーやキキーモラといった家妖精に片付けさせたものの、物を害されてはろくに家具も置けない。高価な書物や貴重な薬品をあつかう魔術師としてはゆゆしき事態だ。
原因を排除する必要がある。
「だが俺は陰陽師だ。あまり荒っぽい解決はしたくないんだよ」
ある晩。スイートロールやシロッテタフィー、ハニーナッツといった子どもの好きそうな菓子類と蜂蜜入りのミルクと甘い果実茶を用意して庭先のテラスに腰を下ろす。
すると夜風に乗って林の中から衣擦れの音が聞こえてきた。
そちらに目を向ければ襤褸を纏った老婆が首を吊って揺れている。
「…………」
しばらくそちらを眺めて卓上に目を移すと、老人の顔をした犬がティーカップに注がれた果実茶をペロペロと舐めていた。
「なに見てんだよぅ」
いじけたような口調でぼやく人面犬を一瞥し、中空に目を向ける。
スイートロールが浮かんでいた。
それが少しずつ減ってゆく。
まるで見えないなにかにかじり取られているかのように。
実際そこにはなにかがいた。
魔術的な視覚でしか見えない存在が。
見鬼である秋芳にはそれがはっ
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