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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
ファリクス邸の怪 1
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うとする。

「おい、ちょっと待て。中の造りについて口頭で説明して廻らないのか。客と内見は必須だろ」
「この館に関する情報はすべてその書類にまとめてあります。なにか不明なことがございましたら連絡してください」
「噂の幽霊については書かれていないようだが、本当に出るのかな」
「そ、それは……」
「俺の聞いた話では三〇年以上前にこの家を買った貴族がいたのだが、彼は戦争後遺症で心を病んでおり、家族や使用人を次々と手にかけた末に自殺したとか。それ以降、この家では怪奇現象が多発し、買い手がつかないとかなんとか……。それは事実なのかな?」
「はい、おっしゃるとおりです。売却を繰り返した結果、所有者も相続人もいなくなり国有財産である土地とみなされて、わたくしどもが管理することとなったのですが、巷の噂にたがわず奇怪な現象が多発しているのは事実です」
「たとえば、どのような?」
「壁の中や屋根裏から足音が聞こえてきたり、いるはずのない小さな男の子が走り回っている姿を目撃した者がいました。わたくしが以前この目で見たのは、白い服を着た首のない女性でした」
「白い服ねぇ、たとえばあんな感じのか?」
「え?」

 鬱蒼と生い茂る木々の間に、白い夜着を着たひとりの女が立っていた。
 高い。
 異様に背が高い。
 長身というレベルではない、その身長は三メトラを超えている。
 そして異様なのは背の高さだけではなかった。
 首だ。
 首をかしげている。あごの先が横になるほどの角度で。
 普通の人間なら首の骨が折れているところだろう、その姿は見る者に首吊り死体を連想させた。

「ア、ア、ア、ア、ア、ア、ア……。アアアあああアアア――」

 頸骨の折れた首からはこのような音が漏れるのだろうか、聞く者の身が総毛立つような奇声が漏れる。

「〜〜〜〜ッ!?」

 絶句。
 役人はあまりの恐怖に声も出ない。

「あああアアアぁぁぁアァァァッ――ッ」

 身の毛もよだつ声とともに口から真っ赤な血が滝のように流れ落ち、白い夜着を赤く染める。

「で、で、で――」
「出た?」
「ギャランドゥ!」
「なんだよギャランドゥ(へそ毛)て! 恐怖判定に失敗して錯乱したのか? こんな序盤でおかしくなるなんて探索者失格だぞ」
「あわわわわわ……」

 あまりの恐怖に腰を抜かし、逃げることもできずにいる役人。
 怪女はしばらくのあいだ感情の読み取れない黒目だけの瞳で秋芳をじっと見つめ、陽炎のように揺らいで消えた。

「今のが、噂の幽霊というやつかな」
「そ、そうです! ああいうのが出るのです!」
「ああいう不気味なのが出現するんじゃ、たしかに買い手はつかないだろうなぁ」
「今までの入居者はもって一〇日といったところでしょうか」

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