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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
ファリクス邸の怪 1
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 館の一角にある高さ一三メトラ、直径一〇メトラ。石造りの円形の塔の一階から三階はすべて書斎となっている。
 各部屋の真ん中には机と椅子が置いており、周囲をぐるりと取り囲んでいる壁には五段の書架にぎっしりと蔵書がならべられていた。
 そのほとんどを魔術関連の本で占められているが、なかにはメアリ=クライターの戯曲集やジョン=シープスやライツ=ニッヒといった大衆小説家の作品もあった。
 三階の三方の窓からは菜園と家畜小屋と中庭。さらに館の大部分が見下ろせ、遠くに目を転じれば緑 一色の葡萄畑が青々くけぶって遠くまで広がっている。
 室内にいながら里山と田園の光景が楽しめるのだ。

「……これぞまさに坐擁百城(ざしてひゃくじょうをようす)というやつだ、実に素晴らしい。まるで話に聞くモンテーニュの塔ではないか。あるいは永井荷風の偏奇館といったところか」

 中庭のそこかしこに花樹が植えてあり、ポカポカした日射しのなかで蜜蜂やクマンバチが赤や青、黄色といった色とりどりの花に舞い、しきりに蜜を集めている。
 その様子を眺めていると、なんとも言えない安らかでうっとりとした気分になる。
 秋芳は新たな住居の出来に大いに満足し、独語した。

「闇働きに奔走し、表舞台に出てからも汚れ仕事しかなかった俺が、陰陽師が、呪術師風情≠フこの俺が、爵位にくわえて土地と家までも手に入れることができるとは……」

 ここはフェジテの北東に位置する秋芳の家だ。
 いや、家というよりも貴族や豪商が住む館、屋敷、邸宅。そのような住居だ。
 つまり、豪邸である。
 ちなみにフェジテは大きく五つの区画に分かれている。
 ひとつ目は北地区。アルザーノ帝国魔術学院と、そこに通う学生達が下宿する寮やアパートなどの学生街が、その区画の大部分を占めている。
 ふたつ目は西地区。一般住宅街。中産、労働者階級に属する一般市民達が主に居を構える区画で、広場が多く工業地区もこの区画に含まれている。
 三つ目は東地区。高級住宅街。資産家、貴族、魔術師などの上流階級の者達が主に居を構える区画で、学院に勤める講師や教授陣もここに居を構える者は多い。
 四つ目は南地区。いわゆる商業街であり、フェジテ経済の中心地である。もっとも活気に溢れる区画であり、様々な商店街はもちろん、商館に繁華街、倉庫街、さらに奥まで立ち入れば、知る人ぞ知るブラックマーケット街などもある。
 そして、最後の五つ目が中央区。別名、行政区とも呼ばれるこの区画は街としてのフェジテを保持し、そして舵を取るフェジテの心臓部といっていい。行政庁や警邏庁、労務庁、帝国銀行フェジテ支部などの重要公的機関や、フェジテの各教区を統括する聖カタリナ聖堂などがこの中央区にはある。
 秋芳の家はちょうど北地区と東地区の間。学院にほど近い
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