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彼願白書
逆さ磔の悪魔
アンクル・サム、アンサーミー
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叢雲も、それをわかっている。
それを止めないのは、それだけの案件だから。
今の艦娘によるシーレーンと、艦娘そのものを滅ぼしかねない存在だと、叢雲もわかっているから。
だからこそ、壬生森に同調すらしている。

「ふむ、君はレポートの通りなら、自分の納得のために全体の利益を捏ち上げるタイプだと思っていたが、存外に全体主義の保守派じゃないか。」

「カエサルの物はカエサルの元に返されるべき、と考えているだけだ。彼女達を我々は好き勝手にした。彼女達の生殺与奪はもとより、目的、理由、思想すらも、我々は、彼女達をいじくり回して操った。その分の何かを、我々は誠意をもって彼女達に返すべきなのだ。ましてや彼女達を利用して生存しているような我々のような者は。」

「泣かせるではないか。人道主義者の極みのような言葉だ。」

「そんな綺麗事じゃあ、ないさ。」

壬生森は、細い煙草を内ポケットから出してくわえる。
それを見た黒服が、灰皿を壬生森の前に置き、ライターを構える。

「Mr.ロング。家族はいるかい?」

「妻と、息子が三人いた。二人は戦死したが、ね。残った次男が昨年結婚して、孫がそろそろ産まれるそうだ。」

「そうかい。じゃあ、その孫が娘だとしよう。」

黒服のライターで火を着けた煙草の煙を、壬生森は床に向けて、ふぅと吐く。
そして、老人の顔を見る。

「アンタは孫娘がある日、突然、謎の集団に連れていかれて、人としての尊厳も守られない兵器でしかない存在にされて、得体の知れない男にいいように操られていると知ったら……アンタ、どうするんだ?」








「んーっ、どんな車でもロングドライブはやはり疲れるものだな。」

浜松の飛行場に辿り着いた壬生森と叢雲は、宮古島行きの輸送機に向けて歩く。

「アンタ、さっきのアレは……」

「やれやれ、歳は取りたくないものだね。どうにも感傷的になってしまう。」

壬生森は肩を竦めると、そのままジャケットのポケットに手を入れて歩く。
叢雲は隣に寄り添い、その腕にそっと掴まる。

彼が提督の仕事に戻ってから、だろうか。
こういうことをしても、驚いたり恥ずかしがったりとかはない。
そして、窘められたりもしない。
諦めたのではなく、許容されてると信じたい。
女々しい、甘えだろう。
思うのは、彼とこの距離感でずっといた自分は、実はまだまだ彼からずっと遠くにいたのでは?という懸念。

そんなことはない。
そんなことはない、はずだ。

本当に?

私から見た彼の距離と、彼から見た私の距離が、どうして同じだと思う?

そこまで考えて、嫌になった。
そうではないだろう。
彼がどう思おうが、関係ないだろう。

彼を、愛する。

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