帰還の後に
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て、逃げるようであれば、私も彼を排斥することに異議はありませんでした。ですが、大敗後に敗北は自らの責任であり、部下に何ら比がないことを報告しております。何と言いますか――駐留艦隊と、要塞司令部の責任を問うてきたクライスト大将とは真逆でありまして」
「甘いな」
「だが、それも必要かもしれない。今回の戦いは帝国にとっては何ら良いところはないといってもいいだろう。ならば、クライストを生贄の羊にして、士気をあげてもいいかもしれん」
「駐留艦隊の功を前面にだしてか。そんなものあるのか」
「四倍以上の敵に対して、要塞援護がないにも関わらず、互角に戦ったという点では」
エーレンベルクがしばらく考えるように、視線を外した。
わずかな沈黙ののちに、言葉を吐き出す。
「考えておこう。だが、陛下の御意思次第だ、確約はできない」
「結構です」
「そうなると、要塞司令官の後任は年長を選ばなければなりませんな」
「ああ。ヴァルテンベルクが残るとすれば、駐留艦隊が先任になりかねない。それでは駐留艦隊の独断専行を許すことになる。穏健であり、なおかつ年齢が上な人物。となると、ゼークトやシュトックハウゼンは難しいな」
「両者ともまだ若い――ヴァルテンベルク大将が残れば、遠慮というものもあるだろう」
「あるいは、イゼルローンに土をつけたと侮るかもしれん」
「それはそれで困った話だ――そうだ、彼がいたな」
とんっと思いついたように、エーレンベルクが指先でソファを叩いた。
「カイザーリンク中将だ。彼ならば退役も近いし、ヴァルテンベルクを侮ることもなかろう」
「退役近くの身で、イゼルローンはいささか厳しくはございませんか」
「そのまま中将で退役するよりは階級が上がるだけ良いだろう。それに彼は独身だ――身軽でいいじゃないか。司令長官はいかがかな」
振られたのはミュッケンベルガーだった。
元より、全帝国の宇宙艦隊はミュッケンベルガーの配下となる。
一艦隊の司令官の人事を聞かれて、考えた。
それは憲兵隊から聞かされた不穏な噂だ。
それが正しいかどうかは今後の調査次第ということになってはいるが、そんな人物を、首都オーディンから遠く離れたイゼルローン要塞を統括する司令官に配属させていいものかと。
だが、反対を口にするにはあまりにも証拠が少なく。
何よりも、先のヴァルテンベルクについての意見を、エーレンベルクは受け入れた。
そんな状態で、あえて否定する言葉も浮かばない。
ただ静かに、ミュッケンベルガーは頷いた。
「何も問題はございません」
「ならば、決まりだな」
シュタインホフとエーレンベルクが、頷いた。
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