帰還の後に
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ゼルローンでなくなった平民の命など、一切考えられていない。
仮に、平民だけが全滅しただけであったら、ここまで彼らを悩ませていなかっただろう。
考えるのは、今回の戦いによって与える損害と回避―−即ち、宮廷闘争だ。
最もそれらを蔑ろにする人間であったならば、この地位まで彼らが来ることもなかっただろう。
優秀なだけの将官であれば、いくらでもいる。
その中でも帝国三長官に立つことができるのは、たったの三名だけであるのだ。
「それだけではありますまい。この件を陛下が耳に入れれば、たいそう嘆かれることだろう」
深いため息を共に、言葉にしたのはミュッケンベルガーだ。
大柄な体が、やや沈むように肩を落としている。
それを見て、二人の老人は顔を見合わせて、わずかに口元を歪めて、そうだなと頷いた。
「その件については、リヒテンラーデ候から耳に入れていただく他はあるまい」
「味方殺しの加えて、難攻不落のはずのイゼルローン外壁が破られたこともな」
頭の痛い話だとシュタインホフは口にする。
「それで――上がって来た報告を詳しく聞かせてくれ。少しは良い話があるといいが」
「は……まず、敵軍は並行追撃作戦により」
ミュッケンベルガーは、宇宙艦隊司令部に上がって来た報告を口にする。
並行追撃作戦が始まり、それによって味方事トールハンマーの餌食となったこと。
その件については、大きな驚きはなかった。
味方殺しというからには、乱戦が作り出されたことは容易に予想されたからだ。
だが、敵の最前線が前進によって射線から離脱したことを知れば、シュタインホフは目を開いて、問い返した。
「何だと――敵は前進して回避したのか」
「ええ。驚くことに」
頷いたミュッケンベルガーにも、驚きと――僅かながらの称賛の表情がある。
そんな二人の様子に、エーレンベルクだけが疑問を浮かべた。
「前進して回避したことが、そんなに驚くことなのか」
二人の視線が、エーレンベルクに集まった。
戸惑うようなミュッケンベルガーに対して、わずかに早くシュタインホフが理解したというように頷いた。
エーレンベルクもシュタインホフも、それぞれが門閥貴族とも呼べる有力貴族である。
だが、格の高さで言えばエーレンベルクの方が上であり、彼が宇宙艦隊に配属された期間は少ない。
そのことを理解したように、シュタインホフは小さく咳を払った。
「ただ前進したことで回避が可能であるなら、イゼルローン要塞は既に攻略されているでしょう」
シュタインホフから視線を向けられて、言葉を続けたのは、ミュッケンベルガーだ。
「艦隊というのは、自動車のようにアクセルを踏めばすぐに動き、ブレーキを踏めばすぐに止まるというものではありません。加速には
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