帰還の後に
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ば……」
「なぜ、あちらの作戦を選択したのです」
「不思議かい」
問われることをヤンは予想していたのだろう。
アレスの言葉に、驚いた様子は見せなかった。
口に入れていたパンを飲み干した。
「作戦を二つ見せていたならば、おそらくシトレ大将は」
「今回とは違う作戦を選ぶ可能性は高かっただろうね」
即ち――全面攻勢。
イゼルローンの攻略と一分艦隊を選べば、例え穏健派と呼ばれるシトレ大将であってもスレイヤーやアレスを見捨てる選択をしたことであろう。
ただ単純に人が好いだけでは、宇宙艦隊司令長官は務められない。
それほどまでにイゼルローンの価値は大きいものだった。
そして、ヤンはそれを理解していたからこそ、提案したのは一つ。
アレスが見る瞳には、否定の色は映っていない。
真っ直ぐな問いだ。
その疑問に対して、少し思案を見せた。
だが、浮かぶ答えは、答えとして言葉に出るものではなかった。
無駄な死者を増やす必要はない。
そう答えればよかったのかもしれないが、後のことを考えれば、正しい答えでもない。
「多分、答えは同じだと思う……大尉も、私も」
首を振りながら、ヤンも手にしていたパンを置いた。
「ただ攻勢の策を取りたいならば、君が作戦を伝えるのはビロライネン大佐でも良かった。でも、あの場で君は私とアロンソ中佐だけに二つの作戦を提示した」
なぜと――逆に答えの前に、ヤンは問いかけた。
「それは死にたくないですからね」
「ならば、今回の作戦だけを伝えるだけで良かった。わざわざ死ぬ可能性の高い作戦を伝えなくても」
当然でしょうと言った様子のアレスに、ヤンは即座に切り返した。
わずかな沈黙。
ヤンが紙コップから、お茶を口にした。
視線が交錯して、最初に視線をそらしたのはアレスだ。
「それは、正直なぜでしょうね」
でもと、残った言葉にアレスが見るのは、いまだに続く歓迎の式典だ。
それは、笑顔。
百万近くの仲間が死んだ、その帰還を彩る笑顔なのだ。
「でも、死なせたくもないのです。自分の命がかかっている状態で客観的な判断を降せる自信はなかったので」
「迷いか」
「すみません。ヤン少佐に任せることになって」
「正直、それはもっと上が判断する話だと思っているけれど」
頭を下げたアレスに、ヤンはいいさと肩をすくめた。
「信じられないことに、君は大尉で、卒業一年。私が階級でも、年齢でも先輩だからね。それも給料のうちだろうさ」
給料分は働くとの言葉に、真面目だったアレスの表情が緩んだ。
どこか嬉しそうに笑う姿に、ヤンもつられるように笑みを浮かべた。
「それに正しいかどうかなんて、私にだってわからないさ。けどね、あの件を知っている
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