帰還の後に
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に視線を送った。
いまだ興奮冷めやらぬように、口々に戦いを讃える声だ。
愚か――と、彼らを否定はできない。
夜のニュースではイゼルローンでの戦いが報道され、初めて要塞に打撃を与えたシトレ大将は英雄で、亡くなった兵士たちは名誉の戦死を遂げたことになっている。
なぜ誰も、否定しない。
否定すれば、選挙で負けるからだ。
なぜ、選挙で負ける。
それを同盟市民が望んだからだ。
「どうかなさいまして、トリューニヒト議員」
「これはウィンザー議員。少し飲み過ぎたようで、夜風にあたっていただけです」
「珍しいですわね。でも、今回は見事な戦いでしたもの――少しくらい飲んでも罰はあたらないでしょう」
「ええ。素晴らしい戦いでしたね」
トリューニヒトが笑顔で答える様子には、一切のゆがみはない。
声をかけたウィンザーも笑みで答えれば、丁寧に頭を下げて、立ち去った。
少し飲んでも、か。
笑みを顔に張り付けたままに、トリューニヒトは心中で笑う。
死んだ百万の――そして、その家族はどう思っているのだろうかと。
そして、それを無視して飲むのは生き残った家族か。
愚かなものだ。
瞳をわずかに伏せると、夜の冷たい風が、ほてった顔を撫でた。
だが、それ以上に心に空いた穴を抜けるように吹く風は冷たく――トリューニヒトの耳にいつまでも残響を残した。
+ + +
宇宙歴792年、帝国歴483年6月。
イゼルローン要塞から一月にもなる長い旅程をへて、第四、第五、第八艦隊はバーラト星系に到着した。いかにハイネセンが自由惑星同盟の首都惑星であるとはいえ、軍港には既に首都を守護とする第一艦隊が係留されており、三艦隊が同時にハイネセンのドックに入ることはできない。それぞれの艦隊はバーラト星系に設置されている、軍港に分けて係留され、次の戦いへ備えるために、修理と整備が行われることになった。
最もシトレ大将やグリーンヒル中将などの各部隊の司令官が乗る旗艦は、ハイネセンに止められ、一足先に地上の地面を踏みしめることになる。
政治家への挨拶と報道機関への対応のためだ。
とはいえ、今回はそれほど厳しい問いかけはないというのが、大方の予想である。
攻略ができなかったとはいえ、イゼルローン要塞の外壁――第三層まで傷をつけたという事実は、撤退の報告を入れると同時に同盟市民を喜ばせていた。帰路のニュースではイゼルローン要塞のめくりあがった外壁が幾度となく、流れており、あと一歩という文字が美辞麗句に装飾されて飾り立てられていた。
画面では、昼のニュースが映し出されている。
ちょうど宇宙港からシャトルで戻って来たシトレ大将を、国防委員長が出迎えている場面だ。満面の笑みで握手する様子は、満足
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