第三章
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「ですから播磨から来ました」
「あの国から」
「はい、参上致しました」
「それではかなりのことですな」
「そうです、宜しいでしょうか」
「わかりました」
確かな顔でだ、弁慶は西行に応えた。そしてだった。
彼は西行を己の主である源義経がいる館の主の間に案内した、そこには武士の質素な服を着た小柄ながら整った顔立ちの者がいた。
その者が誰か、西行はすぐにわかった。そして彼が座して頭を下げるとここでその男の方から言ってきた。
「話は弁慶から聞いている」
「はい」
「私が源の九郎判官だ」
「左様でありますな」
「西行殿か、私も話は聞いている」
義経は自ら名乗ってから西行に微笑んで言った。
「高名な僧籍の方で歌人であられるな」
「高名かどうかはわかりませぬし歌も」
どうかとだ、西行は義経に答えた。
「ほんのよこ好きで」
「それでか」
「誇れるものではありませぬ」
「しかし話は聞いている」
義経は西行に微笑んだまま応えた。
「貴殿のことは」
「左様ですか」
「それで播磨からはるばるか」
「こちらに参りました」
「ここから逃げよというか」
義経はまた自分から言ってきた。
「そう言うか」
「おわかりでしたか」
「実は陸奥守殿からも内々に言われておる」
秀衡、彼からもというのだ。
「太郎殿では私を匿いきれぬ、それどころかな」
「鎌倉殿の要求に屈して」
「私を討ちかねないとな」
「拙僧もそう思いまして」
それでとだ、西行は義経に答えて話した。
「ここまで参上致しました」
「播磨からか」
「そうさせてもらいました」
「済まぬな、私は今までな」
「鎌倉殿とですか」
「兄上とお話したい、そうすればな」
「必ずですか」
西行は義経の顔を見た、その顔は一点の曇りもなく西行も正面から見据えているものであった。
「わかって頂けると」
「そう思っておるのだが。太郎殿もな」
「いえ、それはです」
西行も義経を見返した、そうして話すのだった。
「残念ですが」
「そうはならぬか」
「はい、鎌倉殿はもう決めておられます」
「私をどうするかをか」
「お話を聞かれるおつもりはなく」
「木曽殿の様にか」
木曽義仲だ、義経達にとっては従兄になり同じ源氏であった頼朝は法皇の院宣を受けたうえで義経に彼を討たせている。
「私はあれにはな」
「内心では」
「賛成しきれず今もな」
「そう思っておられますな」
「我等の敵は平家であった」
父義朝の仇である彼等だったというのだ。
「だから同じ源氏が争うことはな」
「そう思われますな、しかしです」
「兄上は違うお考えか」
「同じ源氏でもご自身の妨げになられると思えば」
それが誰でもというのだ。
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