第一章
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死んでいない
イーサーは偉大な預言者であった、母マルヤムが奇跡により産んだ子でありアッラーの許しを得て魔術さえ使えた。
その為にだ、彼は注目を浴びる様になっていた。
「凄い者がいるらしいな」
「イーサーというらしいな」
「大工らしいが」
「何か不思議な生まれらしいぞ」
「母親がナツメヤシの木陰で産んだというが」
その母の名はマルヤムという。
「急に陣痛に襲われ」
「そして大地や川に護られて産んだという」
「奇妙な話だ」
「全く以てな」
まずはその生まれから話されていた。
「そして急に陣痛に襲われたので人々が母を非難していると庇ったらしい」
「まだ揺り籠の中にいたというのに」
「実に不思議だ」
「妙な話だ」
「まことにな」
「不思議な魔術を使うらしいぞ」
「預言も行うらしいしな」
口々に話していた、とかくイーサーという男には不思議な話が多かった。
それはこの不思議な生まれと揺り籠から母を庇って赤子だというのに喋っただけに止まらずさらにだったのだ。
「泥を鳥に変えたとな」
「盲目の者も籟病の者も治したか」
「死んだ者も蘇らせたのか」
「そして空から巨大な食卓を出して弟子達に食事を振る舞ったらしいぞ」
「魔術なのか、本当に」
「それは妖術でないのか」
自然とそれはアッラーの力ではなくジンの類のよからぬ力ではないかと噂される様になった。だがイーサーは笑って言うのだった。
「私の力は間違いなくだ」
「はい、アッラーのお力です」
「それは間違いありません」
「それは我々が確かに見ています」
「弟子の私達が」
彼の周りにいる弟子達が口々に言った、そして他の者達もイーサーの力はジンの妖術ではなくアッラーの魔術であると証言した。
だがある日だ、イーサーはその面長で端正であり長い髪の毛と見事な髭のある顔でこんなことを言ったのだった。
「誰にもわかるアッラーのお力を世に見せればいいか」
「といいますと」
「一体どうされるのですか」
「一体」
「うむ、私を疑う者は私をジンの力を使う者として処刑しようとしている」
このことを言うのだった。
「ならばここはだ」
「まさか」
「ご自身からですか」
「処刑される」
「それにかかられるのですか」
「そうしよう、しかし私は預言する」
満面の笑みでだ、イーサーは言い切った。
「必ずな」
「生きられる」
「処刑されてもですか」
「それでも」
「そうだ、私の力はアッラーから授かっているものだ」
はっきりとした声で言い切った。
「若し私に過ちがあるのなら」
「その時はですね」
「アッラーが力を取り上げられる」
「そうなってしまうだけですね」
「そうだ、そして私は処刑される」
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