第三章
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引っ掻いてだ、それで怒られていた。
「餌をやる人間にも攻撃するか」
「それがミミだろ」
眼鏡をかけた地味な感じの息子にだ、腹が出た男が言う。聡美と雄太郎の父である雄吉だ。
「いい加減慣れろ」
「慣れないよ」
雄太郎は父に口を尖らせて言い返した。
「ちょっと仕事が遅くなって餌やるのが遅れたら引っ掻くんだよ」
「そんなものだろ、猫は」
「親父はそう言うけどさ」
「じゃあ餌やらないか?」
「やるよ」
雄太郎は父に口を尖らせたまま返した。
「俺の仕事だしな」
「ミミのことについてな」
「そうするよ」
「お父さんはブラッシングしてるしな」
「けれどその親父にもだろ」
「ああ、昨日噛まれたぞ」
雄吉は息子に笑って答えた。
「困った奴だ」
「困るなんてものじゃないよ」
「本当に悪い奴だな」
「かなりね」
こう言う雄太郎だった、だが。
餌はちゃんとやり元気よく食べるミミは笑顔で見た。そうして翌朝も餌をやるのだった。だが彼が仕事に出ている昼は。
祖母の美和子が餌をやっていた、それで美和子も言うのだった。
「ミミは何かあるとすぐに噛んでくるねえ」
「引っ掻いてよね」
「そうしてくるね」
仕事から帰ってきた聡美と一緒に食後のお茶を楽しみつつ話した。
「いつもね」
「そうなのよね」
「あんな乱暴な娘はいないよ」
「そうよね」
「これは大きくなったらすぐにね」
「すぐに?」
「不妊手術した方がいいね」
皺だらけの顔で言うのだった、背はかなり小さく髪の毛は真っ白だ。
「さもないとね」
「余計に騒がしくなるの」
「特に春はね」
「あっ、さかりがついて」
「それでね」
その為にというのだ。
「だからね」
「早いうちになの」
「不妊手術した方がいいわ」
「そうなのね」
「かなり乱暴な娘だから」
自分の横を好き勝手に遊んでいるミミを見ての言葉だ、クッションに所謂猫パンチを必死に何度も浴びせている。
「今もね」
「何かあるとそうするのよね」
「そうしたらかなりましになるかも知れないし」
不妊手術をすればというのだ。
「だからね」
「そうなの、けれどね」
聡美はミミを見つつまた言った。
「この娘本当に乱暴ね」
「お祖母ちゃんもそう思うよ」
「こんな乱暴な猫そういないでしょ」
「いやいや、これで結構ね」
「いるの」
「だから雌猫は乱暴なのよ」
「雄猫よりも」
聡美は祖母の言葉に顔を向けて言った。
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