南米にて
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ってしまったのである。そしてアルゼンチンに限ったことではないが、歴史的経緯から南米の住民は人種的に混沌としていて、いったいどうして自分は人種なんてものにこだわっていたのだろうかとすら思えてくる。
元上官のアイヒマンや社長のウェゲナーも同じようなことを考えているのだろうか。そんな疑問を持つことがあるが、カウフマンは問うてみる気になれない。第三帝国のことはもう既に終わったことで、そんなことを語り合おうという気にはなれないのだった。だから、ウェゲナーの本名も、どこの収容所の所長だったのかも気にしていない。彼が仕事と日々の糧を与えてくれるのならば、それ以上考える必要もないのだと割り切っている。
だが、そのような感情は無意味であり、過去はカウフマンを運命から逃がそうとしなかった。社長から申し訳なさそうな顔で話を切り出したのだ。申し訳ないが、ナチス時代の高官が君に会いたいといっていると。南米に逃亡してもナチス残党の社会は一種のヒエラルキーが成立しており、上からの命令とあれば断れないのは第三帝国時代と同じだった。
カウフマンも嫌だったが、ナチス残党の社会で孤立して、イスラエルやユダヤの追手からの逃亡生活を続けることができるとも思えず、しかたなく承諾してウェゲナーから渡された南米のとある住所にある豪邸へと向かった。玄関の扉を叩くと、自分を呼んだ人物が扉を開けて出てきた。その人物にカウフマンは見覚えがあった。
「ランプ部長」
「久しぶりだな、カウフマン中尉」
そこにいたのは第三帝国時代、ゲシュタポ極東部長だったアセチレン・ランプだった。昔と比べていくらか老けたような印象を受けるが、それ以外はあの頃となにひとつ変わらない頑強さを感じさせる肉体をたもっていた。ただそれでも昔の鋭かった眼光の鋭さはなくなっていた。
ランプはカウフマンの父親とは親しい仲であったらしく、第三帝国時代にはカウフマンに対してなにかと目をかけていた。ランプがSDからカウフマンを引き抜き、日本での任務を与えてくれなかったら東部戦線に送られて死んでいたであろうことを考えると、カウフマンにとっては生命の恩人ということになるのかもしれない。
「まあ、はいれ。ちょうど飯時だ。なにか馳走しよう」
そう言って、ランプはカウフマンを屋敷に迎え入れた。屋敷の中身もしっかりしていて、一目見て高級品とわかるインテリアが、下品ではない程度に整えられていて、カウフマンを驚かせた。彼がナチス残党仲間から与えられたボロいアパートの一室とは比べ物にならない。
「ランプ部長はずいぶんと儲かっているのですね。南米に来てからなにか事業に成功したのでしょうか」
「……いや、総統が名誉の自決をなされるまで、ベルリンにとどまり御側で忠勤に励んでいたことが上から評価されてな。なにかと援
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