前日譚1-2
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力で誰かを救い、何かを守るには悪魔のようになるしかないんだよ。それはとうの昔に割り切っていた。
オレはアシェラルの「救世主」だ。他の目なんて気にする暇はない。
そうやって生ける焚き火をじっと眺めていたら。
あることを失念していた事に気が付いた。
「隙あり! よくも、よくもヴィンをやってくれたなぁ!」
「救世主さま!」
怒声、悲鳴。
反射的に身を翻したが、己の右腕に確かに感じた熱さ。それは燃えるようで、やがては狂いそうなほどの激痛に取って代わる。
「く……くあぁ……!」
オレの右腕には、無残な傷があった。オレは思わず右腕を抱きかかえてうずくまる。
失念していた。敵は一人ではなかった。
オレが倒したのはまだ、六人中の一人だけだったのに。
うずくまるオレ。それを好機と見て、残った五人が一気にオレに襲い掛かる。「救世主さま!」との悲鳴。しかし誰も助けに来ることはなく、いたずらに叫ぶだけ。
ギラリと光る、五本の剣。対するオレは大きな怪我を負って。
こんな状況では、魔法素(マナ)を組むのに集中できるはずがないのに。
死にたくなかったから、生きたかったから、オレは、
「燃えよ! はぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああッ!!」
燃えるように痛む右腕。痛みを実際の炎に変えて。
激痛と熱さが、これ以上ないほどにオレの意識を明瞭にした。
そして。
「うわぁ! 熱いぞ!」
「ぎゃああああああ!」
轟(ごう)ッ、と音を立てて突如燃え上がった炎。それは炎の至近距離にいたオレ自身の肌も焼いたが、その炎は男のうち二人を包み込み、三人をオレから遠ざけた。
オレは低く、唸るように叫ぶ。
「オレに……近づくなぁッ!!」
さらに舞い上がった炎。
激痛のあまり遠のきそうになる意識を、懸命に繋ぎ止めて。
オレは全てを焼き尽くさんと燃え上がり、今まさに自分の制御を離れようとしている轟炎の中、力を振り絞って立ち上がった。
「燃えよ!」
叫んで、傷ついて麻痺しかかった右腕を振れば。先程の火炎で辛うじて難を逃れた男二人に火の玉が飛ぶ。
悲鳴。霞んだ目で眺めやれば、女と彼女を護るように立っていた男三人も、逃げるようにして村を出ていく。
人道的に言えば、本当はこの四人を見逃すべきなのだろう。現にオレもとっくに限界を超えている。しかしここはアシェラルの秘境。この場所を知った外部の人間を、生きたまま逃がすわけにはいかないから。
傾く身体。それでも完全に倒れる前に、火の玉一つ、飛ばし、燃え上がる。それが一気に四人にぶち当たって燃えだしたのを見た時、ついに身体が限界を迎えて。地獄のように燃え盛る炎の中、オレは自分の意識が急激に闇に包まれていくのを感じた。
なぁ、みんな……。
――オレは、あんたたちの救世主に
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