第八話 浅井家の内その三
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「最近静かじゃな」
「当家の領地でも」
「織田殿の方もな」
「全体的に」
「ううむ、静かなのはよいが」
それでもとだ、久政は警戒する顔で述べた。
「しかしな」
「静かなのもですか」
「怖いと思わぬか」
「はい、何か企んでいるのではとです」
「思うな」
「どうしても」
長政もだ、言われてみればだった。
「そうも思えてきます」
「警戒はしていくべきじゃな」
「やはりそうですな」
「これからもな」
「一向一揆は恐ろしいですから」
「他の家と争う方がましじゃ」
一向一揆、彼等と戦う時はというのだ。
「だからじゃ」
「はい、それ故に」
「気をつけていこうぞ」
「あの者達にはこれからも」
「そうしていこうぞ」
本願寺の話もしてだった、久政は長政の考えをよしとした。彼の考えは信長にも伝わっていた。それでだった。
信長は蒲生、長政と同じく近江に領地を持っている彼に言った。
「猿夜叉の考えもっともじゃ」
「浅井家にとっては」
「うむ、流石わしが見込んだだけある」
妹の婿、それにだ。
「だからな」
「このお考えは」
「よい、それにわしもじゃ」
信長はさらに言った。
「朝倉家を大名としては摂り潰してもな」
「滅ぼすことはですか」
「考えておらぬ、無駄な血は望まぬ」
信長にしてもというのだ。
「だからな」
「浅井殿が助命されれば」
「それを受ける形でな」
そうしてというのだ。
「許そう」
「そうされますか」
「猿夜叉の言葉を受ける形にすれば」
「浅井殿のお顔が立つ」
「それでじゃ」
ここまで考えてというのだ。
「そうしよう」
「そこまでお考えとは」
「ははは、わしもそうしたことは考えておる」
信長は蒲生に笑って話した。
「他の者の顔を立てることはな」
「はい、殿はです」
「それ位はしておかぬとな」
「よくありませぬな」
「猿夜叉の顔を立ててやってな」
そうしてというのだ。
「後はじゃ」
「越前を手に入れる」
「それが肝心ですな」
「左様正直朝倉家は宗滴殿だけじゃ」
多くの者の見方だが信長もまた同じであった、彼から見ても朝倉家は宗滴でもっている様な家であるのだ。
それでだ、蒲生にもこう言うのだ。
「あの御仁がおられぬとな」
「もう何でもない」
「だからわしも命を奪うつもりもないのじゃ」
朝倉家の者達、特に主の義景のそれをというのだ。
「特にな」
「奪うまでもない」
「毒にも薬にもならぬ」
宗滴以外の朝倉家の者達はというのだ。
「その様な者達どうでもよい」
「殿、しかしです」
ここで言ってきたのは佐久間だった、織田家の武の二枚看板の一人である彼はあえて言ったのである。
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