第五次イゼルローン要塞攻防戦7
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目が合えば、どちらともなく、笑う。
そんな二人の様子に、ファーガソンが呆けたようにモニターを見ていた。
遠ざかるのは要塞と、駐留艦隊。
闇の中で瞬く駐留艦隊の明かりと――太陽の様に輝く光の渦を見つめた。
もう一方で、近づくは瞬く味方の光。
そこで初めて、実感を持ったように――情けなくとも手すりにもたれかかった。
「はは」
口から漏れるのは、小さな、から笑いだった。
いまだに助かったことが奇跡の様に思え、そして実感もできないでいる。
何が起こったのか。
ファーガソンですら理解できないのだ。
他の者も、浮かべる表情はファーガソンと似たり寄ったりの、呆けたような間抜けな表情を浮かべている。
この状況を正確に理解しているのは、目の前にいるスレイヤーとアレス・マクワイルドだけだろう。
誰よりも厳しく、真剣な表情をしていた二人。
そんな二人が穏やかに笑ったことで、ファーガソンの力も抜けていた。
ただ助かったと――詳しくは理解していないが、それだけは理解ができた。
スレイヤーがアレスに近づいて、ご苦労と一言声をかけた。
それは直属の部下ではなく、他部署の、そして一大尉に真っ先にかける言葉ではなかったかもしれない。
しかし、ファーガソンは不思議と不愉快な気持ちは持たなかった。
むしろ、それが当然であると――自然と受け入れることができた。
死地の中にずっといたために、そんな負の感情を持てなかったという側面もあるかもしれないが。
「どうやら、正しい選択を選んでくれたようだ」
「どうでしょうか。もしかしたら、誤りであったかもしれません」
「その判断は、後世の学者や政治家に任せるよ。ただ我々は助かり――生き延びた、それで十分ではないかね」
スレイヤーの言葉に、アレスは静かに瞳を閉じて、ゆっくりと頷いた。
「ええ。生き延びた……それ以上は贅沢ですね」
「マクワイルド大尉。礼をいう」
名前を呼んだ後に続いたのは、敬礼だ。
教科書の手本そのままの姿で、伸びた背筋と指先がアレスに向けている。
動かぬ姿に、アレスが戸惑いを浮かべれば。
自然――ファーガソンもまた、アレスに対して敬礼をしていた。
命を助けられた――それが実感をもって、体を動かしていたからだ。
伝染するように、アレスを囲むように、動く腕が増えていく。
やがて、全員が敬礼をアレスに向けていた。
「ああ。私は何も……」
照れたように呟くが、周囲を見れば、アレスもまた敬礼をした。
照れ笑いを消して、真剣な表情となる。
「助かったのは皆様の力によるところです。私こそ助かりました」
「そうか。そういう事にしておこう」
スレイヤーは静かに頷いて、ゆっくりと腕をおろした。
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