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才能売り〜Is it really RIGHT choise?〜
Case2-3
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さんだよ。それでも料理だけはどう足掻いてもできなかった。それは致命的な欠点だった。
 ぶちまけられたカレー。あたしは呆然と床に座り込んだままかずくんを見た。
「前言撤回だ、顔だけで中身のない女。俺は顔の綺麗な女の子が好きだが、料理ができなければ話にならない」
 いつかは「料理ができなくても、それでもお前が好きだ」って、言ってくれたのに。
 あたしは間違ったのかな。あの時「料理」を対価にしなければ良かったのかな。
 でもね、あの時のあたしにはそれしか誇れるものがなかったんだよ! 仕方ないじゃん! あたしは心の中で叫んで、かずくんを睨みつけた。
「何だその目は」
 かずくんの声は絶対零度の響きを帯びていた。
「何だと聞いている! 答えろこのクソ女!」
 かずくんは座り込むあたしを蹴とばした。あたしは蹴とばされた姿勢のまま動かなかった。――動けなかった。
 わかったのはこの瞬間、何かが決定的に終わったのだという妙な確信。
 あたしの不味い手料理かスーパーの惣菜、もしくはレストランの食事ばかり食べさせられていたかずくんの食生活は決して良いものだとは言えない。たまりにたまったうっぷんが爆発しただけだ、それだけなんだよ、今日は。
 あたしは何も喋らない。服にカレーをくっつけて座り込んで、ただ無言でかずくんを見上げるだけ。そんなあたしをを見てかずくんはさらに手をあげようとしたけれど、寸前で思いとどまって、やめた。
 かずくんは、絶対零度の声で言うのだ。
「お前とは離婚するよ、美波」
 子供もいるのに。
「子供は俺が引き取る。お前の飯を食っていたら理香は死んでしまうからな」
 それは訣別の、言葉。
 あたしたちの子の理香は子供部屋で眠っているから、この騒ぎは聞こえない。
 かずくんは、あたしの好きなかずくんは、あこがれの武藤先輩は、言うのだ。
「さようなら」

  ◇

 かずくん――いや、武藤さんと離婚したあたしは、堕ちた。武藤さんと離婚したあたしは新しく職業を探すことにした。でもね、これまで専業主婦をやっていたあたし、会社員なんてやったことのないあたしに今更職業なんて得られるわけがないよね? 貧困にあえいだあたし、それでもあたしの美貌は健在だったから――あたしは水商売で身体を売ることになった。
 恋も家庭も失って、結局は与えられた美貌しか残らなかったあたし。そんなあたしができることは限られているんだ。
 だから今日もあたしは、好きでもない男とその身を交わらせて喘ぎながらも、生きていくための糧を得る。水商売を続けていくうちに、どうしたら男が喜ぶのかわかるようになった。それでも料理は相変わらずだ。惨めだった、あたしは最高に惨めだった。
 あの日あの時あたしのした選択は、間違いだったの?
 かずくんとの毎日を、幸せだった
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