第二章
[8]前話
「候補生、いやもっと言えばな」
「大学時代からね」
「そうだ、防衛大学の頃からだ」
通称防大という、日本の防衛隊の士官を育てる大学であり他の国で言うと士官学校になる。
「あの白い詰襟はな」
「どうしてもね」
「好きでない」
「やっぱりあれよね」
同期も言うのだった。
「汚したらいけないし」
「一度着たらな」
「すぐにクリーニングに出すから」
もっと言えば出さないといけない。
「面倒なのよね」
「あんな面倒な服はない」
七八は彼女ならではの毅然とした口調で言った。
「どうもな」
「それ皆思うわよ」
「あの服を着ればな」
「海上防衛隊の幹部は誰でもね」
「好きでなくなる」
「そうなのよね」
「本当にデザインはいい」
七八はこのことは認めていた。
「世界にこれまで出た軍服の中で一番だろう」
「その恰好よさはね」
「海軍時代からの軍服だが」
夏、熱帯地での礼装であった。その時から。
「やはり恰好いい」
「これまでにない位ね」
「それはいいのだがな」
「いざ着るとね」
「あれだけ面倒なものはない」
「白だから」
とにかくこのことが問題だった。
「汚れが凄く目立つから」
「そのせいでな」
「しかも礼装だからね」
略装とは違う、このことも大きいのだ。
「汚したら駄目で」
「普段からな」
「動きも気をつけないといけないし」
「とにかく少しのことで汚れる」
そしてその汚れが目立ってしまうのだ。
「とかくな」
「それですぐにクリーニングだから」
「略装はまだ洗濯出来る」
洗濯機で自分でだ。
「それが出来るが」
「礼装はそうはいかないから」
洗濯機で洗えないのだ、デザインは詰襟の学生服だが学生服が洗濯機で洗える筈がない。そうした生地ではないのだ。
「困るのよね」
「絶対にクリーニングだ」
「あの厄介さは着ないとわからないわね」
「いちいち肩章も付けないといけないしな」
「そこも大変よね」
「全くだ、あの服を着る前は」
周囲からはよく言われるがだ。
「少し憂鬱な気持ちになる」
「あんたがそう言うんだからね」
「海上防衛隊の幹部はな」
「皆そうよ」
「このことは他の人にはわからないな」
「ちょっとね」
同期はぼやく感じで言った、七八はそうした顔ではない。だが好きではないということは声には僅かにしても出ていた。
だが周りからは彼女の白詰襟姿は好評だった、それで広報にもスカウトされて撮影もされた。しかしそれでも彼女はこの服はどうしても好きではなかった。親しい者達にだけそのことは漏らしていた。
白詰襟の苦悩 完
2018・8・24
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ